「アジメドジョウ」という魚をご存知でしょうか?
「シマドジョウ」とも呼ばれるこの魚は
体の中央から背中にかけてゴマ粒のような斑紋があり、近畿から中部地方の清流に生息。
ドジョウの中では最も味が良いとされ、
最近は乱獲や生息域の減少により絶滅危惧種に指定されている希少な魚です。
ところで、このアジメドジョウに似た「あじめコショウ」という地域の伝統作物を、
世界に発信していこうと頑張っている「好辛倶楽部」というグループが
「岐阜まんぷくジャーニー」で食の体験イベントを行うことを知り、中津川に行くことになりました。
折しも日本列島は大寒波に襲われ、大変な雪に。
中央高速道路は中津川から八王子までが通行止めになったため、
多治見を過ぎる辺りから大渋滞に巻き込まれました。
超ノロノロ運転の末、ようやく高速を降りたはいいけれど、思うように走ることができず……
ようやく目指す中津川市下野の「下野いきいき会館」にたどり着いたのは、
開始時刻の午前11時を大幅に過ぎ、正午を少し回ったころでした。
いきいき会館の前には“日本三大庚申堂”の一つとされる「下野庚申堂」がありますが、
この日は参拝する人もなく、しんしんと降るまっ白な雪にすっぽりと覆われています。
会館入口では、大遅刻をした非礼を浴びる私をスタッフがあたたかく出迎えてくれました。
この日は、こんにゃくとピザづくり体験が予定されていましたが、どちらもあじめコショウ入り。
私が着いた時にはこんにゃくづくりは一段落し、ピザづくりが始まっていました。
写真を撮ろうと準備していると、昼食のカレーライスを食べるようにと勧められました。
もちろん、あじめコショウ入りの「あじめカレー」です。
見た目には普通のカレーライスと変わりませんが、食べた後でピリリと来ます。
パッケージには「好辛倶楽部」会長である
安保洋勝[あぼひろかつ]さんの似顔絵のイラストが印刷されていました。
カレーライスをいただき、ピザ作りの写真を撮っていると、安保会長が現れました。
現在は農業に従事し、あじめコショウをはじめ多くの農産物を生産・販売。
地域の農業の発展に尽力している安保さんですが、その昔はバスの運転手をされていたそうです。
そして、中高年のフォークソングファンには懐かしい
「中津川フォークジャンボリー」では事務局次長を務めていました。
小学生の農業体験を実施している「椛の湖農業小学校」の校長先生でもあります。
今日はこの大雪でハウスがつぶれてしまったのだそう。
「この辺りは雪は多いのですか?」と尋ねると、「そんなことはなく、むしろ、あまり降らない」とのこと。
やはり、今年は特別のようです。
さて、さっそく安保会長にあじめコショウについていろいろと話を聞きました。
それによれば、「あじめコショウ」とは、実はコショウではなく唐辛子。
「この辺では唐辛子のことをコショウというんや」と会長。
400年の昔から下野地区の辺りで栽培されている純血種に近い唐辛子で、
近くに安土桃山時代、兵を率いて朝鮮に出兵した豊臣秀吉の碑文があり、
秀吉はあじめコショウを朝鮮に持って行ったのではないかと言われているそうです。
キムチの元を作ったのはあじめコショウ?なんて考えると、浪漫がありますね。
さて、「好辛倶楽部」が発足したのは平成11年。
「好辛」とは下野庚申堂の「庚申」と、「香辛」料、気持ちを「更新」する、
あじめコショウを通じて世界の仲間と「交信」するなどの言葉をもじってのネーミング。
現在、会のメンバーは全国で200名ほど。
「あじめコショウを食卓の脇役から主役に」をスローガンに掲げ、
「料理の脇役を、話の主役に」、を合言葉に、「トウガラシ文化(食文化)を世界に発信してゆこう」と、
あじめコショウ入りの激辛料理を食べて汗をタラタラ流しながら“唐論会”を重ねています。
メンバーは「唐辛子は人の上に人を作らず」と、
互いの肩書きを忘れて親睦を深めているというなんともユニークな団体です。
「好辛倶楽部」の発足には、俳優の川津裕介さんが深く関わっています。
かつて「てれび博物館」という番組で司会を務めており、「椛の湖農業小学校」を訪れた川津さんは、
土づくりから取り組む小学校の姿勢にとても感動し、「ここに唐辛子があるといいね」と一言。
この言葉がきっかけで「好辛倶楽部」が生まれ、今も川津さんは名誉会長としてたびたび当地を訪れています。
下野地区で昔から自家栽培されていたあじめコショウは、1本にたくさんの実がなるため、
畑のすみに2~3本植えてはきんぴらゴボウや漬物に使っていたといいます。
直売所に出す人もいましたが、たいていは自分で加工して粉にしていました。
「6~7月ごろになると青い実が熟してきて9月になると赤くなる。
そうすると収穫して乾燥させ、ミキサーにかける。
昔は知らん顔して料理に入れて、相手がびっくりする顔を見て喜んでいた」と、
いたずらっこのように目を細めて笑う安保会長。
あじめコショウは辛いばかりではありません。
糖度はトマトに近く、辛い中に甘みがあり、いろいろな料理に使うことで旨みが出ます。
今回作ったピザはあじめコショウ入りのケチャップを塗った上にいろいろな具を乗せて焼いたもの。
こんにゃくにもあじめコショウの粉末が入っており、さしみこんにゃくでいただきましたが、
あじめコショウが入ったことで、味が引き締まった感じがしました。
「唐辛子を食べる人はさっぱりした人ばかり。付き合っていて気持ちがいい」とは会長の弁。
「好辛倶楽部」ではこれまでに、地元の恵那農業高校と共同開発した甘辛いケチャップ「あいこのあじ」や
あじめコショウ入りのドレッシング・「好辛醤油」・「好辛食酢」・
「とんからしらす味噌」・「とんから飴」などを
企画・開発し、中津川市坂下町にある道の駅「きりら坂下」をはじめとする地域限定販売。
「好辛倶楽部」の会員になると、通販で購入することもできます。
今回、体験に訪れていた名古屋市在住の土屋朋子さんに話を聞きました。
検査員をされているという土屋さんは、
ふだんからカレーやサルサソースを自分で作るのが好きなのだそう。
「昨年度開催された『長良川おんぱく』で郡上市の「猪鹿庁」さんのグループによる
鹿の解体に参加したのがきっかけで、今年も『まんぷくジャーニー』に来ました。
あじめコショウの食体験に参加したのは、こんにゃくづくりがしたかったから。
それに、辛いだけでなく、旨味があるという唐辛子がとても気になりました。
製品化されているものも多く、とても使いやすい状態になっているので、
購入してうちで料理に使ってみたいと思います。
こんにゃくづくりもとても楽しかったし、『好辛倶楽部』のおじさんたちもおもしろいです。
アットホームで、親戚のおじさんに会いにきたみたい」と話してくれました。
安保会長は、「あじめコショウは人と人とを結びつける接着剤のようなものだ」といいます。
辛いけれど、いったん口に入れたが最後、離れがたい魅力を感じてしまう。
土屋さんも、そんなあじめコショウの魅力に取りつかれた一人なのだと思いました。
以前、郡上の明宝で唐辛子のすまし汁をいただいたことがあります。飲んだ後で猛烈な辛さがのどいっぱいに広がるのですが、その甘辛さが忘れられなくて、ついつい飲み干してしまうのです。あじめコショウも同じ唐辛子。うどんやそばのスパイスは言うまでもなく、いろいろな料理に使うことで旨味がまし、料理の味をより引き立たせます。人間味とバイタリティーにあふれる「好辛倶楽部」の面々とお話しするのも楽しいです。
(松島頼子)
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施設名 | 好辛倶楽部 |
住所 | 岐阜県中津川市下野1488 |
TEL | TEL:0573-72-3157(会長:安保洋勝さん) |
FAX | FAX:0573-72-3230 ※「好辛倶楽部」入会希望者は安保会長まで、ファックスを送信してください |
URL | 好辛倶楽部 |
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2014年2月8日現在の情報になります。