三重県南伊勢町で3年前より始まった、養殖のクロマグロをつくり育てる取り組み。
熊野灘の潮にもまれ、稚魚から成長したクロマグロは「伊勢まぐろ」とネーミングされ、なめらかな食感とくせのない旨みから、高い評価を得ています。
この美味なる魚が、どのような環境で育てられ、出荷されているのか、現場からレポートします。
養殖マグロの生産を行うのは、町の神前浦(かみさきうら)に事務所と加工場をおく「ブルーフィン三重」です。同社は、漁連や漁協などの参加を得て、2011年に発足しました。
魚価の低迷や、飼料・資料費の高騰などによって、厳しい事業環境に見舞われている養殖業。
養殖の盛んな三重でも、主力となるマダイをはじめ多くの魚種において、他県とのはげしい競争や出荷価格の低迷が続き、生産者の減少が進んでいます。
そのようななかで同社は、日本をはじめ世界的に需要が高く、高価格で取引されているクロマグロに着目。地元の漁業者とともに地域の発展を目指そうと、養殖クロマグロの育成に挑戦しました。
神前浦は、第11代垂仁天皇の皇女である倭姫命(やまとひめのみこと)が、天照大神(あまてらすおおみかみ)の鎮座の地を伊勢に求める旅の途中、休憩をとった地といわれています。
そのような歴史ある神前の神聖な海で大切に育てたクロマグロを全国に届けたい。伊勢まぐろには、多くの関係者の熱い気持ちが込められています。
南伊勢町は、国内におけるクロマグロ養殖場のなかで、もっとも北に位置しています。
主産地である沖縄・南九州と比べると、年間平均で7度以上海水温が低く、黒潮の影響を受けた潮流の速い海域のため、健康的で身のしまった魚が育ちます。
同社では、直径50メートルの巨大な円形の生簀(いけす)を現在12台、神前浦の地先に展開。毎年、最大で約3万匹の稚魚を導入し、養殖しています。
生簀にいれる「ヨコワ」と呼ばれるクロマグロの稚魚は、夏場の熊野灘近海で一匹ずつていねいに釣り上げられたもの。魚体が体長20~30センチと小さいうちから養殖することで、個体差の少ない安定した身質になるそうです。
餌は、餌料会社と共同開発した粉末配合飼料と、地元の奈屋浦港で水揚げされた新鮮なゴマサバやイワシなどの近海魚を原料とするモイストペレットを使っています。
モイストペレットを併用することで、生餌のみで育てた場合に比べて臭みが少ないのが特長です。
生簀のなかで25~35キロくらいまで丸々と太った伊勢まぐろは、釣り上げられるとその場ですぐに血ぬき、内臓除去などの下処理がほどこされます。
鮮度と身質の劣化を防ぐため、この工程を3分以内で済ませてしまうというから驚きます。
その後は同社の施設へ運ばれ、減菌した0~2度の冷却海水と氷で満たした魚槽内に浸し、魚体を5度以下に保って冷やします。十分に冷やし込んだら、一匹ずつ洗浄・計量し、氷をつめて出荷します。
このように伊勢まぐろの上品な身質を保つため、釣り上げた後の処理には、細心の注意が払われています。
水揚げされた伊勢まぐろは、丸のまま出荷されるほか、最新の設備をそなえた漁連南伊勢水産流通センターで、さまざまな用途にあわせて加工され、各地へと運ばれていきます。
商品は、鰓(えら)と内臓を取り除いた丸のもの、ロイン(4つの節状になったもの)、ブロック、サクなど。漁連が丸のままで主として消費地市場や量販店向けに、同社がブロックなどの小口で町内の料理店などに卸しています。
伊勢まぐろの開発について、社長の有竹等さんは「ゼロから始まった。全員経験がなく、無我夢中だった」と、事業のスタート時を振り返ります。
有竹さんは長年にわたり活魚を扱ってきた、魚介を知りつくす達人ですが、それでもクロマグロの養殖は「課題が限りなくある」とのこと。「将来へ自信が持てる恒久的な仕事をつくりたい」と事業への思いを語ります。
天然により近い、オンリーワンの上質な赤身をもったクロマグロを育てようと、有竹さんをはじめ社員全員で試行錯誤をかさねて4年。その努力が少しずつ実を結び、伊勢まぐろは東海エリアで独自のブランドの地位を確立。首都圏や関西でも、評価の声が高まっています。
2014年6月6日取材時の情報になります。
ライター : 新美貴資
施設名 | 株式会社ブルーフィン三重 |
住所 | 三重県度会郡南伊勢町河内字奈津乙109番地 |
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