「花酵母」という言葉を聞いたことはありますか?
今日、清酒製造に用いられる酵母は、日本醸造協会から購入する「きょうかい酵母」が一般的です。
これらは優秀な株ですが、日本中で使われる酵母ではない株を求めた結果、
花酵母にたどり着いた造り酒屋が郡上市白鳥にあります。
白山水系の良質な地下水に恵まれたこの地で、
創業は江戸時代中期元文五年にさかのぼる布屋 原酒造場を訪ね、
十二代目当主で自らが杜氏でもある原元文さんに酒蔵を案内していただきました。
広い間口の玄関を開けると、表から見る以上に、大きな空間を持つ建物であることが分かります。
この建物は、明治40年と大正11年の大火で白鳥の中心部が相次いで焼けた後、
大正12年に立て直されたとのこと。当時のメインストリート、越前街道に面していました。
創業当時から使われている酒蔵へは、靴を履き替えます。
270年を経た酒蔵の扉の前には、これまた年月を感じる釜。
釜場と言う米を蒸す場所で、昔はお湯を薪で沸かしていました。
もう一つ、目に付いたものが・・・研究室?
「ここも現役ですよ。お酒を作る上で必要な分析などをここでやります」と原さんです。
取材当日、郡上市内はこの夏一番にも数えられるような厳しい暑さでしたが、
蔵の中の温度計はなんと24℃台。びっくりする程の涼しさです。
気になる花酵母については、パネルの解説を前に、原さんが説明してくれました。
花酵母は、自然界で咲いている花から分離した天然の酵母です。
パン生地を発酵させる天然酵母は見聞きしたことありませんか?
酒造りに向いた発酵能力の高い天然酵母も、その存在は予想されていましたが、
種類・数とも少ないためなかなか見つからず、分離する技術すらありませんでした。
こうした中、原さんが在籍していた東京農業大学の研究室で、
花酵母を分離する技術が確立されたのは12~3年前のこと。花酵母第一号の花はなでしこでした。
参考までにとお気に入りを尋ねたら、「桜と菊がベースですね、5年くらい使っています」だそう。
研究に関わっていた原さんからは、花酵母への思い入れに人一倍の強さがうかがえます。
酒蔵の二階へも上がってみると、そこには麹室。蒸した酒米を広げ、麹を植え付ける部屋です。
「昭和56年豪雪のとき、
今は駐車場になっている所にあった麹棟が雪の重みでつぶれたため、ここへ移しました」。
築270年にあってこの一角には新しさを感じます。独特のにおいがする麹室の中ですが、
これは麹と殺菌剤が合わさったにおい。
無菌状態を保たなければ、麹が雑菌に負けてしまうため、殺菌は念入りに行うそうです。
したがって、酒造りのシーズンは見学できません。
麹室には電熱線も引かれています。
これは、麹の繁殖に適温とされる30~35℃に室温を保つためです。
この設備がない時代は炭で暖めていたため、
一酸化炭素中毒事故が発生したり酒蔵の火事の原因になったりと、危険を伴っていました。
観光協会の役員でもある原さんから、白鳥の歴史・観光情報をお聞きした後、外へ出ました。駐車場と長良川堤防の間にある田んぼは、こちらで使う酒米を栽培中。酒造好適米ではなく、白鳥で一般的な銘柄あきたこまちです。 花酵母探しは第一号のなでしこ以来、約20種に達しましたがそれでも年1~2種のペース。この1年、岐阜県の花レンゲは上手くいかなかったものの、郡上市の花コブシでは分離に成功しました。コブシの花酵母でどのようなお酒ができるか、今まさに試験中です。 (小穴久仁)
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住所 | 岐阜県郡上市白鳥町白鳥991 |
TEL/FAX |
TEL:0575-82-2021 FAX:0575-82-6233 |
URL | 布屋 原酒造場 |
nunoya-sake@bridge.ocn.ne.jp |
2011年7月15日現在の情報になります。