かつて、東海道五十三次の3つの宿場が置かれていた三重県亀山市。趣ある東海道沿道とともに、市が景観を守ろうと力を注ぐエリアが「坂本棚田」です。
階段状につくられた棚田は、美しい風景を描く一方、米を育てるには平地と異なる難しさがあります。ここでの農地の保全を支援し、地域の活性化をめざす亀山市環境産業部農政室副室長の小林恵太さんに、棚田の特徴や市の取り組みをうかがいました。
澄んだ水面に夕陽が映りこむ春、黄金色の稲穂がたわわに実る秋、白く雪化粧をした冬。坂本棚田は四季折々に情緒豊かな表情を見せてくれます。
この豊かな自然と、川の水源に近い清らかな水が、棚田に米を実らせます。一方、一つひとつの田を見てみると、形は曲線を描く部分もあって面積も小さめ。まっすぐに苗を植えられる平地と異なり、一気に作業するのが難しそうです。
「棚田での米づくりは、労力もコストもかかるのが現実です。なかなか生産性や効率を上げられません。かといって価格には反映できないのでどうしても赤字になりがちです。坂本の方々はここ特有の環境や問題に向き合いながら、手間暇かけて米をつくっているんですよ」と小林さんは話します。
坂本棚田を守り、地区の活性化につなげようと市では様々なサポートをしています。田の保全のために国の農業支援制度の交付をバックアップしたり、作物に被害をもたらすイノシシや鹿などの獣害対策の利用も手助けしています。
「田の草を刈ったり土を起こしたりという“保全”が不可欠ですが、そこで止まってはいけないと思っています。耕作されてこその棚田。どの田にも稲が実っているという風景が理想です。高齢化などの問題もありますが、つくることに喜びや楽しさを感じられる棚田であってほしいのです」。
ほかにも、市では坂本地区の中にある「いっぷく亭」の設置をサポート。ここは農産物の直売所として、また地域内外の人がおしゃべりできる交流の場としても利用できます。
地域外から、坂本棚田に興味を持つ人たちも現れました。三重県内の企業から「棚田でボランティア活動をしたい」と市役所へ連絡が入ったのです。小林さんは坂本棚田保存会へ橋渡しをし、今年5月から企業と坂本の人たちとの交流が始まっています。
「外から興味を持ってやって来る人たちに、地域の人も関心を持ち、コミュニケーションが深まっているようです。こうしたつながりを継続して、よい方向に進んでいけるといいですね」。
昨年は、保存会、自治会、市が一緒になって地域活性化に向けた取り組みを話し合いました。その結果、収穫した米を「亀山坂本棚田米」としてPRしようと米袋を製作することに。県外のデザインユニットがそのデザインを担い、皆で検討を重ねた末、今年8月に完成しました。米袋には繊細な線で人と田が描かれ、素朴な風合い。棚田ならではの手仕事のイメージと風景を伝えます。それぞれの生産者がこれを使って自ら作った米をPRし始めました。
「棚田米の価値を認めて評価をしてくれる人は、地元の外にもいると思います。そうしたファンをつくっていくことが大切です」。
「坂本にとって良い結果を出す方法は、正直分かりません。ただ、今何もしないと土地は荒れていってしまうかもしれません。手応えを感じることを一つひとつ積み重ねていくのみです」。
地域と市が連携して、棚田を守り受け継いでいく歩みはこれからも続きます。
2014年10月9日取材時の情報になります
ライター:南由美子
施設名 | 亀山市環境産業部農政室 |
住所 | 三重県亀山市本丸町577 |
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