三重県一のカキ産地である鳥羽市浦村町で、特産の浦村カキの魅力を伝え広めたいと活動する人々がいます。産地の活性化を目指し、「手まり牡蠣」を開発した鳥羽市地域おこし協力隊の佐藤慎也さんと、生産者の木村勳さんにお話を伺いました。
佐藤さんは昨年8月、鳥羽市の委託を受け地域おこし協力隊員に就任。カキ養殖を中心に地域の一次産業に携わりながら、浦村町と鳥羽市の魅力を発信する活動を行っています。
「実は浦村に来るまでカキは大の苦手で、正直に言うと大嫌いでした(苦笑)。でも浦村のカキは食べることができたんです。本当に美味しくて、感動しました」。
地域おこし協力隊として活動するうちに、佐藤さんは産地が抱える課題に気付いたと言います。
「浦村のカキはまだまだブランド力が弱く、高いポテンシャルを持っているのに、他の有名産地のカキと比べると値段が高く付きにくい。残念ですが、安いというイメージを持つ人が多いんです。また生産者さん達は手間と時間をかけて一生懸命作っているのに、それをきちんと伝えて売るということをしていない。もったいないなあって。先人から受け継いだ技術でこんなに美味しいカキを作っていることも、世に伝えていくべきだと思ったんです」。
浦村カキに魅せられた佐藤さんは、浦村ならではの個性を生かした新しいカキを作り、産地の活性化と魅力発信に取り組むことを決心します。
浦村という産地の魅力を伝える、新しいカキを作りたい。その思いを実現するために佐藤さんが相談したのは、浦村町のカキ生産者、木村勳さん。木村さんは、カキ養殖の本場アメリカやオーストラリアなどへ視察に出かけたり、新技術を積極的に導入するなど、研究熱心な生産者として知られています。木村さんも浦村の現状に危機感をいだいていました。
「ひとつは過密養殖の問題。浦村では大量生産志向から、筏に適正数以上のカキを吊るす生産者が多いです。それだと海中の酸素や餌となるプランクトンが減ってしまい、よいカキが育たなくなってしまいます。環境にも負担がかかります。
もうひとつは生産者の高齢化と担い手不足。カキ養殖は尋常じゃなくキツイ仕事なので、やりたいという若い人が少ない。環境と担い手、これを何とかしていかないと、産地としての未来はないと思うんです」。
新しい価値を付けたカキを作りたいという佐藤さんに、木村さんは独学で得た技術を地域で受け継がれてきた養殖方法に応用し、高品質で作りやすいカキを提案。「高く売れるカキが作れるなら、やってみようと思う後継者が増えると思って」と木村さん。そうして生まれたのが「手まり牡蠣」です。
木村さんの作業場で、手まり牡蠣を見せてもらいました。まず目を引くのが、表面が滑らかで蛤のような乳白色をしていること。触っても全然痛くありません。オイスターバーなど直接手で触れて食べる時にも合うよう、殻に付く異物や泥を極限まで落とす工夫をしているのだそう。
「これまでの垂下式養殖では、できるだけカキを揺らさないで大きくしましたが、手まり牡蠣の場合は揺らして育てます。殻と殻がぶつかってこすれることで角が取れて丸みを帯び、表面も滑らかになります」と木村さん。
浦村カキの流通はLサイズが中心ですが、手まり牡蠣は一回り小さいMサイズ。活かし込みという特別な畜養方法で、小粒でも丸々とした身に育てています。もちろん味にもこだわっており、クセがなく上質な味わいの浦村カキに甘みや旨味の加わった、より美味しいカキになっています。
「生産者として、浦村カキの魅力をもっと伝えていきたい」と話す木村さん。「手まり牡蠣は、先人達の努力が確立した浦村の優れた養殖技術があるからこそ作れたもの。産地の伝統を守りながら、より高品質で美味しいカキを時代に合わせて提案していきたいと思っています」。
木村さんは地域の生産者と勉強会を開き、養殖のノウハウを共有する取り組みも行っています。
昨年、佐藤さんたちは手まり牡蠣の販売をスタート。その味と品質の良さは、カキ料理のスペシャリストやオイスターバーなど、専門家の間で高い評価を得ています。
「手まり牡蠣はゴールではなく入り口。魅力ある浦村のカキを知ってもらい、世の中に届けていくアイテムのひとつだと考えています。課題は山積みですが、浦村カキを未来につないでいく活動をしていけたらいいなと思っています」と佐藤さん。
伝統のカキ産地がどんなチャレンジをし、どんな新しい魅力が生まれるのか。今後が楽しみです。
2016年2月18日取材時の情報です。
ライター : 梅田美穂
施設名 | 鳥羽磯部漁業協同組合 浦村支所 |
住所 | 三重県鳥羽市浦村町1238 |
TEL | 0599-32-5002 |
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