鳥羽から船で30分ほどのところにある答志島。総面積約7平方キロメートル、周囲約26キロメートルの鳥羽市最大の島で、周囲には大築海島、小築海島などの無人島があります。
伊勢湾と外海の境に位置する答志島の周辺は四季を通して様々な種類の魚が獲れる好漁場で、漁業が盛んな島です。ところが、最近は漁獲量が減っていると語る鳥羽磯部漁業協同組合答志支所青壮年部部長の勢力吉郎さん。とくにアワビの生育場所となるサガラメ(通称アラメ)の減少は著しいと言います。
漁場を守る一環で海の植林を行う漁師の皆さんと活動をサポートする鳥羽市水産研究所の岩尾豊紀さんにお話を伺いました。
※写真:岩尾さん(左端)と答志支所青壮年部の皆さん(左から会計の山下吉継さん、部長の勢力さん、事務局の濱口文明さんと濱口輝満さん)
植林するための準備段階の種苗づくりは、鳥羽市水産研究所の岩尾さんが行っています。「サガラメやカジメなどの成熟した海藻から遊走子※をとり、糸に付着させて5~10ミリぐらいに生長したらそのまま木片に付けます。その木片の上でさらに3ヶ月以上かけて30センチほどの大きさになるまで育てた後、自然の石に固定して海に沈めるという方法で植林を行っています」。
現在、藻場再生をしているのは、答志島の北東にある大築海島沿岸。「5月頃に石を沈め、水温が上がる6月頃には魚による食害を防ぐためにネットを張り、水温が下がる11月頃にネットをはずし、一部は近くの小築海島沿岸へ移植します」と岩尾さん。
海藻の状態を調べるモニタリングも再生保護活動には欠かせない作業。昨年までは、岩尾さんが行ってきましたが、今年からは青壮年部の皆さんが主体になって調査する予定とか。
※遊走子:無性生殖細胞である胞子の一種で、適当な場所に付着し、発芽して新しい個体になる
藻場再生には、先輩漁師たちも取り組んできたと言います。最初は失敗だらけで、原因もわからず、試行錯誤の連続だったそうです。
海に投入した石を整理整頓したり、ネットを張ったりするのは青壮年部のダイバーたち。「水中での作業は大変なんですよ。とくに海底から舞い上がる砂でお互いの顔が見えない上、話もできないので作業の連携が難しいですね」。
かつてはプロのダイバーに依頼することもあった水中での作業ですが、今では39名の組合員のうち約半数が資格を持ち海に潜っています。「組合漁協の理解や補助を得て、青壮年部の中から屈強な10名を選び、スキューバーダイビングの資格をとってもらうことにしたんです」。
藻場再生への挑戦が認められ、平成21年の「第14回全国青年・女性漁業者交流大会」にて鳥羽磯部漁業協同組合答志支所青壮年部は天皇賞を受賞しました。
木片を石に固定する作業と海への投入は地元の中学生とともに行います。
石は青壮年部の皆さんが島で探します。石の材質は問わないものの、大きさや形は重要だとか。「軽すぎてもひっくり返るし、重すぎても水中での作業が大変。10キログラム前後の石を用意します」。
子どもたちに海の環境を守る大切さを教えるために、5年ほど前から一緒に活動しているそうです。「この活動は磯焼け対策でもありますが、子どもたちへの環境教育の一環でもあります」と勢力さん。
植林した海藻が生長して遊走子を放出し、幼体となった海藻が生長して次の子孫を残すというサイクルができあがったときに藻場再生の活動は成功したといえるとか。
漁師の皆さんは「今のところ目に見える結果は出ていませんが、続けていくことが大事ですね」「自分たちが子どもの頃に見たような豊かな海に少しでも近づけることができたらいい」「別の視点から海を見ることができる」と、口々に活動への思いを話してくれました。
岩尾さんは「漁師の皆さんが目的を持って継続的に海の様子を観察することができる点でも藻場再生活動を行う意味があると思います。地元の人々が地元の海の環境を認識して地域の活動として定着し、やがて一つの文化になれば…」と言います。今やっていることが次世代に伝える文化の種をまいて育てている活動だとしたらとても素敵なことだと思うと、熱く語ってくれました。
2015年7月7日取材時の情報になります
ライター:田中マリ子
施設名 | 鳥羽磯部漁業協同組合答志支所 |
住所 | 三重県鳥羽市答志町241-1 |
TEL | 0599-37-2018 |
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