大垣駅からやや東にある住宅街の中に建つ寶光寺。
縁日の法要にたくさんの人々が参詣するなか、
庫裏の方では岐阜県産の有機野菜や無添加のオーガニック食品を中心とした
「BOSP(ビオシップ)マルシェ」が行われていました。
この日の出店は、寶光寺住職・釋一祐さんの友人で、
このマルシェの主催者の一人であるフードプロデューサーのKIYOさんこと
南清貴さんお勧めのオーガニック食品などを販売する「アトリエキヨ」、
揖斐川町谷汲に移住して有機野菜の生産・販売をしている「ナチュラルファームCocoro」、
KIYOさんの友人で海津市で自然肥料をつくっている中津川市出身の田口喜平さん、
そして、岐阜市で有機野菜の自転車宅配を始めた亀山正法さん、
フェアトレード商品や雑貨などを販売する「暮らしの店コモレビ」の弓削英香さん。
すでに回数を重ねているだけあってリピーターも多く、
あれよあれよという間に商品がなくなっていきます。
特に人気なのは新鮮な地元産の有機野菜。
地元の女性や子育て世代の若い主婦たちが購入に訪れ、
大垣でも安心・安全な食に対する関心が高まっているのがうかがえます。
「寺とは本来、様々な出会いと確かな情報発信の場であるべきだ」と考える釋さんが
「農薬や化学肥料に頼らないで農業をやっている人や、
そういう人たちがつくった農作物を世の中に紹介したい。
個別で販売してもなかなか広まらないので、
マルシェという形でやってはどうか」と提案し、KIYOさん、田口さんも共鳴。
「東日本大震災チャリティ復興イベント~おひさまと大地と水と風に感謝して」と題し、
初めて「BOSPマルシェ」が開催されたのは、2011年6月11日。
場所は横浜の南区にある常勝寺でした。
「この時は岐阜の野菜を横浜に持って行って販売しました。
横浜の人たちにおいしくて安全な野菜をたべてほしくて……私とご住職、
ジャーナリストのベンジャミン・フルフォードさんと
食・宗教・情報とまったく違う分野で活動してきた三人が、
『確かさ』をテーマに鼎談(ていだん)を行ったのです」とKIYOさん。
多くの哀しみをもたらした「東日本大震災」からちょうど3ヵ月後、
日本中が原発事故の放射能による被害におののき、失ったものの大きさに呆然として、
かじをきる方向を見失っていた最中のことでした。
フードプロデューサーのほかに、
俳優・舞台演出家、整体の指導と多彩な顔を持つKIYOさんが食の大切さに目覚めたきっかけは、
演劇の勉強の一環として整体を学んだことでした。
自然の摂理に叶った食事を追求しつつ、歪みと矛盾に満ちた現代社会に警鐘を鳴らしながら、
1995年には東京の代々木上原にとオーガニック・レストラン「キヨズキッチン」をオープン。
自然食やマクロビオティックとは一線を画した
「オプティマル・ヒューマン・ダイエット」(人間にとって最適な食事のシステム)を提唱してきました。
そのポイントは、穀類、豆類、葉菜・果菜、根菜、動物性たんぱく質をバランスよく摂取し、
必須栄養素と植物栄養素を合わせて体の中に摂り込むことだといいます。
最近は、自然な形で加齢を受け容れようと「アンチ・エイジング」ならぬ
「ナチュラル・エイジング」という新しいキーワードを基軸とした活動を展開。
社員食堂やホテル、病院などのフードメニューの開発や
レストラン、カフェなどの業態開発にも取り組んできました。
そんななか、東日本大震災が起こり、福島第一原子力発電所から大量の放射能が飛散したのです。
目に見えない形で長期にわたり、人体を蝕む放射能。
生命の危機にさらされたことで、
前々からより農ある暮らしにシフトしていこうと考えていたKIYOさんは、決断を迫られます。
それは住み慣れた東京を離れて安全な地域で農地を確保し、ゆくゆくは被災した関東・東北の農家の人たちに、
放射能で汚染された農地に代わる安心して野菜作りができる土地を提供しようということでした。
KIYOさんはその可能性を岐阜県大垣市に見出したのです。
移住の候補地は大垣以外にもいくつかありました。
しかし、岐阜県には耕作放棄地が多く、有機農法に取り組む人が多いことから、
この先、被災した農家を受け入れる態勢づくりをするうえで希望が持てると考えたのです。
釋一祐さんをはじめとする友人、知人がいることも大きな理由でした。
大震災から6日後の3月17日、KIYOさんは家族全員で大垣市にやってきました。
約2カ月間、寶光寺の庫裏に間借りしての生活。
この間、釋さんと話し合いを重ねながらマルシェの話が煮詰まり、
6月11日、横浜・常勝寺で第1回が開かれたのです。
同年11月から寶光寺の祈祷会に合わせて、
月末日曜日の正午から大垣で「BOSPマルシェ」が開かれるようになりました。
周知には時間がかかりましたが、少しずつ寺の檀家さんらが買ってくれるようになりました。
また、弓削英香さんが広報を引き受けてくれたことで、若い世代にも輪が広がりました。
KIYOさんは著書の中で、自らがこだわる野菜を「真っ当な野菜」と呼んでいます。
それは、土地に根付き、農家が採種することで受け継がれてき在来種、固定種のこと。
「在来種の野菜は味が濃く、旨味が凝縮されています。
しかし、現代の食品産業から見ると大きさや形が不ぞろいで
収穫時期もばらつきがあるなど扱いにくい面が多く、
人工的な品種改良によって生まれたF1品種に取って代わられました。
F1品種は種を採ることができず、次世代へ継承することができません。
自然の摂理に反し、効率と利便性を追い求めた結果、真っ当な野菜が絶滅寸前に追いやられています。
収穫時期にバラつきがあっても、形や大きさが異なっても、
野菜とは本来そういうものであると消費者が理解することが大切。
私たちは自然のおこぼれをもらって暮らしているに過ぎないのですから」と、KIYOさんは言います。
KIYOさんのビジネスパートナーで、
「BOSPマルシェ」の生みの親の一人である田口喜平さんは、元JA職員。
長年養鶏関連の仕事に携わり、KIYOさんとは東京でガンのNPOを立ち上げた時に知り合ったといいます。
鶏糞はとても良い肥料であると考えていた田口さんでしたが、
ある時、「薬品を食べている鶏の糞は肥料には不向き」であると指摘されてショックを受け、
以後、鶏糞を一切使わない肥料を20年ほど作り続けてきました。
しかし、JAを退職後、自分なりにもう一度鶏糞を再生させたいと研究を重ねた結果、
鶏糞におからと土着菌を混ぜて発酵させることで発ガン性物質などの毒素を消し、
野菜がおいしくなる有機肥料を開発することに成功しました。
「農作物の栽培に最も重要な役割を果たすのは土。
この土着菌はとても強く、土に入れるだけで培養が進み、
自然に負荷をかけない形で土壌の改良が進んでいきます。
うちの肥料を使って栽培した野菜を食べるとパワーが出るとか、
肉を食べなくても平気になったという声を聞きます」と田口さん。
田口さんは、中津川や海津市で田口さんの肥料や飼料を使って栽培・生産した
農家の野菜や卵などを「BOSPマルシェ」で販売しています。
「農業で一番大切なのは、体に良いものを作ること。
安全な肥料を使って生産された、おいしくて体に良い野菜や畜産物を消費者に食べてほしいですね」
と話してくれました。
現在「BOSPマルシェ」は東京都大田区や熊本市でも行われており、
新しく大垣市内の「キートスガーデン幼稚園」でも開催されることとなりました。
「生産者と消費者を結びつけるハブの役割を果たしたい。
10軒の生産者に100軒の消費者がついているような、
互いが強い信頼関係で結ばれている小規模ネットワークを機能的に働かせ、
小さく回して小さくもうけることを考える。
大量生産・大量消費はもはや時代遅れです」3人の思いは、徐々に実を結びつつあります。
「スポンサーの利益のためだけに情報を流しているような
マスメディアの報道をうのみにしてはいけません。
今や自分の身は自分で守るしかないんです。そのためにもこうしたマルシェは必要。
確かな信頼を寄せることのできる生産者から確かな情報を得て、真っ当な食材を入手してください。
食材を購入できるのは、スーパーやコンビニだけとは限りません。
食材選択の主導権を握っているのは消費者自身です」と、力強く語るKIYOさん。
そこには決してブレることのない、食に対する確かな信念が感じられました。
「食の安全・安心」を訴える人はたくさんいます。しかし、本来、四季とともにあるはずの野菜が、種類によっては1年中量販店に出荷されていたり、大きさや形がほぼ同じという、考えてみたらとても不自然なことを問題視する人はほとんどいません。人間にとって便利なように、野菜は野菜の持つ自然の営みから切り離され、ゆがんだ形で存在しています。それが本当に「安心・安全」な野菜と言えるのか? 「安心・安全」な食べ物を求めながら、私達は最も重大なことに対して目をそむけているのではないか。「BOSPお寺マルシェ」はそんなことに目を向けさせてくれる、さまざまな出会いの場所です。
(松島頼子)
|
名称 | AtelierKIYO |
住所 |
寶光寺 大垣市三塚町1081 |
TEL&FAX | TEL:0584-76-0117 |
info@kiyo-san.com |
2013年4月28日現在の情報になります。