佐野綾目さんが母・えんねさんから伝授されたお菓子が、
新たな美濃加茂地域の特産品として生まれ変わった。
美濃加茂市が推進する「食のブランド開発支援事業」の一環で、
ドイツパンの店「ベッカライ・フジムラ」のオーナー・藤村誠さんが「えんねのお菓子」として開発。
地元の手土産としてもぴったりで、好評を博している。
藤村さんは「『近くに大きなライ麦パンを売っている店がない』ということで、
オープン当初から佐野綾目さんにも来ていただいておりましたが、
『美濃加茂市役所 蜂屋連絡所』に勤務されている方が綾目さんとも親交があり、
美濃加茂市の特産品として『えんねさんのお菓子』を
再現できないかと言われたのがきっかけでした」と話す。
その後、綾目さん宅を訪問して昔の写真を見せてもらい、
えんねさんのお菓子にまつわるエピソードを聞いた藤村さんは、
試行錯誤しながら現代的なアレンジや親しみやすさ、高級感をトッピングしながら完成にこぎつけた。
お菓子の中には、えんねさんが長らく教鞭をとっていた正眼短期大学のある正眼寺が
精進料理に使っている「クサギ」が入っており、まさに地産地消のスイーツだ。
「週に一度、30個~40個を一度に焼き、ほぼ完売です。
フェイスブックなどで知って、小豆島や奈良から注文を受けることも……
クサギは山野草なので、山に分け入って採らなければならず、安定供給できないことが悩みの種です。
でも、『えんねのお菓子』は賞味期限が4カ月(未開封の場合)と長いため、店頭販売にはうってつけ。
取扱い店舗を増やしていけるよう、頑張りたいです」と、意欲的だ。
ところで藤村さん、最初からパン職人を志していたわけではない。
もともとは有名料理店の食品開発の仕事をしており、
転職のきっかけになったのは娘さんの卵アレルギーだった。
仕事を辞め、独学でパン作りを学び始めたのが4年前。
「卵の入っていないパンを作りたいと思いました。
多くの日本人にとってパンは主食ではなく、おやつ感覚。
ぼくはテーブルを囲む主食としてのパンが作りたくて、ドイツパンに行き着きました。
一番のこだわりはいかに添加物を使わずに、自然な形でやっていくかということ。
自家製の天然酵母を使用していますが、当初は製法のコツや勝手もわからず、
酵母を死なせてしまったことも……ようやくうまくいくようになったのは最近のこと。
オープンして半年は、できの悪いパンはお客さんにタダで配っていました」と、藤村さん。
素材選びの基準はすべて、我が子に安心して食べさせられるかどうかということ。
だから、パンには向かないことはわかっていても小麦は国産。
ドライフルーツの残留農薬チェックも怠らない。
今後の課題はドイツパンをいかに地元に根付かせるかということ。
「ライ麦にはリジンや食物繊維などが豊富に含まれ、
虫歯ができにくいとか唾液の分泌を促すといった効果があります。
ですから地元の子どもたちにもっとかたいライ麦パンを食べてほしいと思っています。
最近ではスナック菓子やケーキを買うより、
こっちのパンを買った方がいいという声も聞けるようになりました」
決して量販店などを否定するつもりはない。
しかし、時にはかたいドイツパンを食べて、ふだんの食生活を見直してほしいと思う。
夏休みには親子参加型のパン教室を美濃加茂市の学習センターで開催するという。
「ベッカライ・フジムラ」のパンには子を思うおやじの熱い心が込められている。
それは我が子だけではなく、パンを食べてくれるすべての人々に向けた愛情だ。
「美濃加茂市のドイツパンの店が「えんねパン」を売り出しました」と、美濃加茂市の知人から連絡をいただき、さっそく出かけてみました。見つけたのは、住宅街の中に隠れ家のように建つチョコレート色の小さなログハウス。こじんまりとした店の中には、ふだん目にしたこともないようなドイツパンが何種類も並んでいます。お店を飾る雑貨一つにしてもオーナーのこだわりの感じ取れる店。「えんねのお菓子」開発のエピソード、そしてパン屋を開くに至ったいきさつ。地元での今後の可能性を感じさせる素敵なお店でした。
(取材・原稿作成:松島頼子 撮影:雨宮明日香)
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お問い合わせ | ベッカライ・フジムラ 美濃加茂市蜂屋町伊瀬852-9 TEL: 0574-66-8195 |
URL | ベッカライ・フジムラ |
2013年2月7日現在の情報になります。