紀伊半島の海沿いにあり、伊勢市の南に位置する南伊勢町。漁業の盛んな地域ですが、全体の85%を山林が占め、内陸部は稲作やみかん栽培を中心とした耕作地と民家が点在する農山村地域です。その一つが大江地区で、地域活性化のために青ねぎ栽培に取り組んでいる木下和行さんにお話を伺いました。
伊勢市の北部に位置する伊勢平野では、昭和40年代後半には青ねぎの栽培が盛んになり、平成11年からはJA伊勢(以下JA)のブランド野菜として出荷され地域の一大農産物になっています。「ただ、冬場に気温が下がるため出荷量が減る点が課題でした」と語るJAの東吉一さん。
温暖な気候の南伊勢町は伊勢市北部より1、2度は気温が高く、青ねぎを栽培すれば需要があるのではという町の考えを聞いた木下さん。高齢化する農村を活性化し、若い人を呼び込むための産業を確立したいという町の意向と、何とか地区を盛り上げ、地域振興や所得向上につながる事業はないかと模索していた木下さんの思いが一致し、平成26年度から大江地区で試験栽培が始まりました。
「青ねぎ栽培が町の産業の一つになればという思いで、町としてもバックアップしています」と話す南伊勢町役場水産農林課の田中啓介さん。
農業に長年携わってきた木下さんですが、稲作が主で青ねぎ栽培は初めての試みです。初年度は10アールの面積から始めました。JAからは、土壌診断、病害虫防除、機械購入の補助などでアドバイスをもらい、苗づくりをはじめとした技術面では三重県伊勢志摩地域農業改良普及センター(以下普及センター)の協力も得ながら、試行錯誤で始めたそうです。
2年目の平成27年度には前年度の10倍ほどの面積(約1ヘクタール)で本格的に栽培。「病気にやられたりして苦労しましたが、12.5トンの青ねぎを出荷しました」と木下さん。
平成28年度からは、それまではJAに依頼していた苗づくりも自分たちで手がけています。
「7月の初旬に種をまき、2ヶ月で定植し、苗床ができるまでに約3ヶ月半かかります。何より水の管理が大切ですね。その日の気候に合わせて水の量を調節します」。朝晩、必ず様子を見に行くとか。
青ねぎ栽培では耕作放棄地を農地として活用しています。「大江地区には耕作放棄地が全体の3割ぐらいあります。まだ少ない方で、8~9割が放棄地という地区もあります」と話す木下さん。
昔、このあたりでは夏に稲作をし、秋からは薪炭の生産をしていたと言います。ところが、山を手入れする人がいなくなり木の下が荒れたことで、どんぐりや栗などイノシシ、サル、シカなどのエサとなる実がなくなり、獣害が起きているそうです。生産した米の3割が獣害にあうような状況で、15年前ぐらいから獣害対策にも力を入れていると言います。
「青ねぎ栽培でも、まずは獣害対策から。国の補助金も活用しつつ、獣害防止柵を張るんです」。万全の対策をして、何とか地域の産物に育てようと取り組んでいます。「地域として成功しなければいけない事業なんです。食べていける農業になれば、地域に雇用を生むことになりますから」と木下さんは熱く語ります。
青ねぎ栽培だけでなく、「大江農地をまもる会」を結成して自ら会長となり、農地と山林の管理などを行っている木下さん。「人が必要なので、志のある人に来てほしいですね。まずは見学からでも…」と地域を担う人たちが訪れてくれることに期待をよせています。
2016年10月22日取材時の情報です。
ライター:田中マリ子
施設名 | 南伊勢町役場 水産農林課 |
住所 | 三重県度会郡南伊勢町神前浦15 |
TEL | 電話0596-77-0007 FAX0596-76-0279 |
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