中部を動かすポータルサイトDochubu

トップページ 今月の特集 地元食を旅する DoChubuピックアップ アーカイブ

DoChubu

温泉を浴びて発酵する
飛騨の「湯けむり紅茶」
2014.12.25 更新

001_IMG_0463_s

奥飛騨の温泉を利用した取り組みの中でも、豊富な湯量を紅茶の製造に生かしているのが、高山市に店を置く「なべしま銘茶」。1908年(明治41年)に創業し、お茶、茶道具などの販売、卸売りを行ってきた老舗です。
3年ほど前から製造、販売を始めた湯けむり紅茶「飛騨紅茶」について、株式会社なべしま銘茶の田中和弘さんにお話を伺いました。

品質の良い国産紅茶に出会って

田中さんが社長を任された10年ほど前、オリジナルの商品ができないかといろいろ探している中で見つけたのが国産の紅茶。「国産紅茶の第一人者、村松二六さんに出会ったことがきっかけで、本格的に紅茶の製造を始めることになったんです」と田中さん。

003_IMG_0436_s

飛騨紅茶について語る田中さん

国産の紅茶は、明治初期〜中期には生糸とともに輸出の主力商品でした。ところが、第二次大戦後は価格競争力を失い、紅茶の輸入自由化もあって、国産紅茶は地元での消費用に細々と作られるだけになりました。
そんな状況を見て、紅茶の灯を消してはいけないと、平成元年から紅茶に適した品種の「べにふうき(紅富貴)」を本格的に栽培したのが、国産紅茶発祥の地である静岡県の丸子に育った村松さんだったのです。
べにふうきは、メチルカテキンが多く含まれ、花粉対策に効果があることでも知られる近年話題のお茶です。「やぶきたなどに比べ渋味が強く、紅茶には適していますが、緑茶にすると渋味が強すぎて好まれない品種です。さらに、同じべにふうきでも肥料や土壌など育て方で葉の性質も微妙に違いますが、村松さんが育てるべにふうきは最高だと思います」と田中さんは言います。
村松さんは有機、無農薬で栽培するだけでなく、紅茶製造に必要な萎凋器(いちょうき)や発酵器なども独自に開発して国産紅茶の製造に取り組んできました。
「9年ほど前から村松さんの元へ通うようになり、作業を手伝いながら紅茶の製造工程を見学させてもらいました」。通い始めて5年目のこと、初めて茶葉を少量ゆずりうけて持ち帰り、紅茶の製造に必要な道具を見よう見まねで作り、紅茶を自分の手で作ってみたそうです。
村松さんができ上がった紅茶の葉を認めてくれたことで、本格的に製造を開始する決心がつき、村松さんの機器を半分ほどのサイズにした特注機器を導入して製造を開始します。

002_IMG_0531_s

高山市内で古くからお茶の販売をするなべしま銘茶

静岡から茶葉を運び、奥飛騨で製造

紅茶を製造するのは5月末〜6月中旬。朝5時に静岡の村松さんの畑まで茶葉を取りに行き、片道約5時間かけて、奥飛騨の製造現場まで運びます。
葉は摘んでしまうと、熱を持って腐り始めるので、葉の温度が30℃以上にならないよう運搬の仕方を工夫していると言います。
運んで来た茶葉は、すぐに萎凋という水分を取り除く工程にかけます。1.5×4.5メートルほどの箱に入れて、熱風をあてながら1時間おきに上下を入れ替えつつ、水分を抜きます。
「一晩もすると葉の量はおよそ半分になりますね。静岡県と飛騨では環境が違うので、水分の抜け方1つとっても、同じようにはいかないんです」と田中さん。葉をつかんでしなり具合や状態を見て判断します。水分の抜き方で紅茶の渋味や香りが変わるので、大事な工程です。

004_DSCF2860_s

水分を抜く前の茶葉は、きれいな緑色をしています

 

005_DSCF2829_s

茶葉に熱風を送り、一昼夜かけて水分を抜いていきます

 

006_DSCF2869_s

茶葉をかき混ぜながら均等に水分を抜きます。田中さん(一番右)の隣りが村松さん

茶葉の発酵には飛騨の温泉を利用

水分を抜いた茶葉は、揉稔(じゅうねん)、発酵、乾燥の工程にそって紅茶にします。
揉稔器に水分を抜いた茶葉を入れ、回転させながら圧力をかけていくと葉に傷がつき、そこから発酵が始まり、1時間ほどで変色してきます。

007_DSCF2870_s

村松さん手作りの揉稔器。1回に30〜35キログラムの茶葉を揉稔することができます

008_DSCF2890_s

揉稔が終わり、発酵が始まりかけた茶葉

発酵の工程は、飛騨ならではの豊富な温泉を利用します。「村松さんは、独自に開発した機器で加水分解発酵という、湿度と温度が高い環境で製造していたのですが、地元飛騨で作るなら温泉を利用できないかと思ったんです」。
発酵に適した温度30〜32℃、湿度90%以上という条件に、温泉はぴったりだったそうです。奥飛騨温泉郷の平湯にある個室で温泉を流しっぱなしにして、発酵させます。

010_DSCF2906_s

揉稔した茶葉を木箱に入れて、発酵の工程へ

010_DSCF2904_s

温泉を流した個室に茶葉を入れた箱を置いておくと、およそ1時間で発酵します

009_DSCF2893_s

発酵してくると茶葉は茶色に変化します

発酵が終わると乾燥。中揉機でおよそ1時間、ゆっくりと温度を上げながら茶葉の内部まで乾燥するように仕上げます。「各工程に要する時間などは、葉の生長ぐあいなどで微妙に変化するため、データ化はできず、経験が頼りです」。

011_DSCF2892_s

乾燥に使う中揉機も村松さんの手作りです

012_DSCF2901_s

「表面ばかり乾燥した茶葉は、2〜3ヶ月後にレモンのような酸味が出てきますので、茶葉のしんまでしっかり乾燥させることが大事です」と田中さん

手をかけて美味しい紅茶を作る

一連の工程を田中さんが中心になり、ほぼ1日で行います。1シーズンで5〜6回、この作業を繰り返します。
紅茶100グラムを作るには、生の茶葉500グラムが必要です。1日で製造できるのは生の茶葉にして約200キログラムまで。今年は生の茶葉約1000キログラムを紅茶に仕上げました。
「紅茶製造を始めた3年前に比べると量は倍近くになりましたね」。 できた紅茶は村松さんに鑑定してもらい、良いと言われたものだけを販売するそうです。
村松さん同様、良い紅茶を作りたいという思いが強い田中さん。「村松さんの育てる茶葉で独自のシステムで製造するから美味しい紅茶ができるんです」。 緑茶の機器を代用したり、別の葉を使ったりして紅茶栽培を試みるものの、うまくいかない例も多々あるとか。
「お茶の製造に関しては全くの素人でしたが、かえって緑茶とは異なる紅茶製造の世界に抵抗無く入れたと思います」。 村松さんに認めてもらえたとはいえ、まだまだ改良の余地はあると語る田中さん。 「海外のトップクラスの紅茶に追いつきたい」と、紅茶にかける熱い思いを語ってくれました。

013_IMG_0519_s

高山市が主催する推奨土産品制度で受賞した紅茶。現在3種類あります
【紫】は渋みがかなり少なく、ほんのり甘みがあるファーストフラッシュ【青】は紫と赤のブレンド【赤】はミルクティにおすすめのセカンドフラッシュ
缶(ティーバッグ2.5g×10P入)【紫】1,620円【青】1,350 円【赤】1,080 円
袋(リーフ30g入またはティーバッグ2.5g×8P入)【紫】1,296円【青】1,080 円【赤】864円

2014年12月1日取材時の情報になります
ライター:田中マリ子

お問い合わせ
施設名 株式会社なべしま銘茶
住所 岐阜県高山市下一之町12番地
TEL TEL0577-32-4086 、FAX0577-34-7785
営業時間 平日10:00−17:30、日曜10:00−17:00
定休日 火曜休
E-mail meicha@vega.ocn.ne.jp
トップに戻る
トップに戻る