色鮮やかで美しいドラゴンフルーツ。熱帯の果物ですが、冬は氷点下になる奥飛騨温泉郷で栽培に取り組む生産者がいます。聞けば、温泉熱を利用したハウスで育てているとのこと。
雪国で南国フルーツを作る、農業法人FRUSICを訪ねました。
向かったのは、奥飛騨温泉郷の一角にある栃尾温泉。「奥飛騨ドラゴン」の看板を掲げた温室ハウスで、FRUSIC(以下、 フルージック)代表の渡辺祥二さんが迎えてくれました。
広さ1060平方メートル(約320坪)あるハウスにはドラゴンフルーツがずらりと植えられ、南国に来たかのような景色が広がっています。またほんのりと暖かく、ここが寒さ厳しい奥飛騨だということを忘れてしまうほど。
「温泉ハウス」と渡辺さんが呼ぶハウスでは、コンクリート通路の下に埋められたパイプの中に源泉で温めた温水を流し、そこからの暖気がハウス内を対流して保温する仕組み。この地域が最も寒くなるのは1月から2月頃。外気温はマイナス15度まで下がりますが、ハウスの中は最低10度をキープできるというから驚きます。
「でも、温度を上げることがすべてではないんですよ」と渡辺さん。「本来、一般的な熱帯果実は一年中実を付けますが、うちのハウスでの収穫は基本的に5月から11月頃まで。収穫の後、1月から3月までは植物をリフレッシュさせてあげます。そうやって木々を休ませるよう、冬場の温度と水分の管理を徹底することが、おいしいフルーツを作るのに重要なんです。そして、夏場も温度が上がりすぎないようにすることが大事。真夏は温泉熱による暖房は使いません」。
一般的なハウスの暖房燃料は重油ですが、自然エネルギーである温泉熱を活用することでCO2削減ができ、ハウスの暖房費も大幅に減らすことが可能。エコロジカルな地域農業として行政や企業、学生らが視察に訪れ、外国からの視察団も増えています。
渡辺さんとドラゴンフルーツの出会いは約10年前、偶然のことでした。
「最初はアセロラに興味を持ったんです。フロリダスウィートという品種に惹かれてフロリダを訪れた時に、ドラゴンフルーツのイエローと出会って。それまでドラゴンフルーツをおいしいと思ったことはなかったのですが、その時食べたイエロードラゴンは本当においしかったんです」。
その味に感動し、早速24種類の苗を輸入。最初、美濃加茂市で栽培したところ、暑過ぎてうまくいかなかったそう。奥飛騨なら寒暖差を利用した高地栽培や温泉熱の活用ができると考え、2007年からこの地で本格的にハウス栽培をスタート。
現在栽培しているドラゴンフルーツは、フルージックで交配したオリジナル品種をはじめ30種類、約700本。果実とその加工品、苗の販売を行っています。
フルージックを始める前は建設の仕事に携わっており、農業は未経験。栽培法やハウスに関するノウハウはすべて独学で身に付けました。スタッフと共に、いろんな種類のドラゴンフルーツを苗から育てて味を比較したり、開花日や花の数をすべて記録し、水やりの量やタイミングも徹底的に研究。「ここまでドラゴンフルーツに詳しい生産者は、たぶんいないと思いますよ」と笑顔で話します。
「とにかくおいしいフルーツをお客さんに食べていただきたいんです。それには植物のことをとことん知って、そのポテンシャルを引き出すことが一番重要、すべての基本だと思うんです」。
「僕は生産者なので、おいしいフルーツを作り続けることが基本。その上で、農業で地域とどう関わっていくのか。農家自身の六次化には興味はなく、地域の六次化をどう作り出せるかが課題です」と話す渡辺さん。
「農業と観光、地場産業が連携することで、循環型地域社会の実現ができるのでは」という思いから、夜に咲くドラゴンフルーツの花を観光客に公開したり、高山市内の加工所に依頼してドラゴンフルーツのジャムやジュースを製造するなど、これまで様々な取り組みを行ってきました。
「農産物を育てて売るだけでなく、奥飛騨が持つ資源を活かした魅力や価値を作り、企業として地域貢献につながれば嬉しいです。そのためにも、次の世代を担う人たちを育てていくことに意味があると考えています」。
農業による新たな価値創出に向けて、渡辺さんの挑戦は続きます。
2014年12月2日取材時の情報です
ライター : 梅田美穂
施設名 | 農業生産法人(有)FRUSIC |
住所 | 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷栃尾952(本社) |
TEL | 0574-25-7183(美濃加茂支店/岐阜県美濃加茂市本郷町9-18-34) |
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