山麓の緩やかな斜面に段々につくられた田んぼ、うねるように張り巡らされた水路、行き交うとんぼ。三重県亀山市の「坂本棚田」は、昔ながらの田園風景が広がっています。
その美しさから平成11年には「日本の棚田百選」に認定されました。地域みんなで棚田を守る「坂本棚田保存会」の川合照道さんに坂本地区の魅力や会の活動を聞きました。
坂本地区は宮川と井戸山川の間に開けた、水が清らかで緑豊かな里山です。
「ここに棚田がつくられ始めたのは戦国時代ともいわれます。400年以上の長い歴史があるんですよ」と川合照道さん。
棚田のなかでも珍しい、法面が石積みになっていることが特徴です。
「田を支えて守る石積みには、山や川で拾ってきた石が使われています。切ったり削ったりという加工はしておらず、もちろんセメントも用いていません。これを築いた祖先たちは、石にかかる力を分散させながらうまく組み合わせました。今でもほとんど壊れないんですよ」。
坂本棚田保存会は、日本の棚田百選に選ばれた翌年の平成12年に発足しました。会員は坂本地区の全世帯。稲作をしていない世帯でも、田の草刈りなどの保全管理を担い、皆が責任を持ちます。
保存会が春先に総出で行うのが水路の整備。米づくりに欠かせない水を、段々になっている田すべてに行き渡らせることが重要だからです。水の通り道を確保すべく、まずは地区の水源に近い場所を大掃除します。
「草や木を刈ったり、石を取り除いたり。マムシがいるので注意しながら作業を進めます」。
農道の整備も不可欠な仕事です。田の合間をぬう農道は細く、ほぼ直角だったり鋭角で曲がっているところも。軽トラックがスムーズに通れるよう、道の穴を埋め、草刈りをするそうです。畦の割れ目や穴を埋めて、田の水漏れを防ぐ機械は地区で共有。田を守り続けるために、皆で力を合わせています。
収穫を終え、落ち着いたのどかな風景が広がる秋の終わり。この時期に行われるのが「いのこの行事」です。実りに感謝するとともに家内安全を願う、坂本の風物詩です。新しい稲ワラを縄状に巻いて、晩秋の満月の夜、それを家々の玄関に打ちつけながら練り歩きます。
「主役は子どもたち。33世帯すべての家を子どもが回ります。ご褒美にお菓子をもらえたり、この日だけは夜遅くまで友だちと遊べるので、子どもにとっても楽しい祭りです」。
川合さんが幼い頃にも行われていたそうで、起源は定かではないものの長く伝わる祭りだといいます。こうした風習や自然、歴史など坂本の魅力は棚田以外にもあります。
「春にはミツマタの黄色い花が山一面を彩る風景も見ものですよ。建立910年といわれる寺も残っていますし。棚田をはじめ、ここにしかない“たから”が実はいろいろあるので、普段はあまり意識していないそれらを生かすことで、皆が笑顔になれたら…。暮らす人が働き甲斐や生き甲斐を実感できて、ここに来てくれた人の心が和む、そんな取り組みをしていきたいですね」と川合さんは力強く語ってくれました。
2014年10月9日取材時の情報になります
ライター:南由美子
施設名 | 坂本棚田保存会 |
住所 | 三重県亀山市安坂山町坂本 |
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