かつてまだ交通が不便で冷蔵庫もなかった頃、食べ物を長期保存できるよう加工したり、
機械装置の動力源を身近に求めたりした光景は、各地の集落で見られたわずか50〜60年ほど前のこと。
今日はなかなか目に出来ない光景ですが、昔ながらの豆腐作りを復活させ、
水力発電も始めた人がいらっしゃると聞き、ふるさと郡上会の小林謙一さんを再び訪ねました。
小林さんに案内して頂いた方は、郡上市大和町の母袋温泉スキー場手前で工房と店舗を構える、
母袋工房代表の筧政之助さんです。
まずは豆腐の製造現場を見せてもらうため、工房に入ってみました。
製造・販売に携わるスタッフは、筧さんとご家族に加え、周辺から通うパートの方々を合わせた6〜8名。
1日120個の豆腐を製造する工房は、こじんまりとした印象を受けます。
入ってすぐ、茶色の豆腐と白色の豆腐が浮かぶ、お湯を張ったステンレス製の水槽が目に留まりました。
このうち茶色の豆腐が、お店の看板商品「燻り豆腐」。
お湯の温度は約80℃あり、ここで加熱殺菌を確実にしておかなければなりません。
その後、豆腐は冷たい地下水へ沈めて急冷させます。
豆腐を包む茶色の皮は殺菌作用も兼ねる竹の葉。
手に取ると絹豆腐や木綿豆腐より堅く、ずっしりしています。
スタッフの方が「試食してみませんか」と、薄く切った燻り豆腐を持ってきて下さいました。
一切れ食べてみると、食感はまるでチーズ、味も薄いチーズといったところでしょうか。
これだけでも結構いけますが、アルコールのつまみにぴったりですし、
マヨネーズとの相性が良いと言う人もいらっしゃるそう。
試食の燻り豆腐をあっという間に食べてしまった私たちは、続いて燻製小屋を見学させてもらいました。
豆腐の燻製時間は、煙の出方にもよりますが1時間強。
スモークチップは色々試した結果、桜材が良かったとのこと。
それも市販品ではなく、製材所から買い付け、トラックで仕入れるそうです。
筧さんのお仕事はこれだけではありません。
「奥の奥という湯葉料理屋をやっていて、どぶろくも作っていますよ」。
と言うことで、今度は工房に隣接する小さな建物のドア開けると、タンクが大小2つ。
どぶろく作りの部屋ですね。
「呑んでみますか?舐めてみて下さい、折角ですから」と筧さんに促され一口。比較的、酸味のある味です。
また別のコップを取り二口目。
一口目と見た目の違いは、沈殿した米も一緒にコップへ注がれた点。すると二口目はまろやか。
同じタンクのどぶろくでも、沈殿した米を含むのと含まないとで、味が変わることを知りました。
ちなみに米は自家製のあきたこまち、水は当然ここの水。
銘柄名を拝見と思い、商品の封を開けてみるとラベルに「奥の奥」。
試飲の後、再び別の建物へ移動し、お座敷へ上がるとここが「湯葉料理 奥の奥」。
囲炉裏の上にある格子状の棚は火天(ひあま)と呼ばれ、乾燥や燻製に用いられていました。
お座敷の奥には、出来立ての生湯葉が食べられるコーナーもあって、
贅沢な田舎料理が頂けるひと時を過ごせそうですね。
こちらは要予約、前の日から大豆を水に浸しておくためです。
筧さんのお名前は、工房の横を流れる谷川の水を使う、小型水力発電を始めたことでも知られています。
もっともダム式発電のような大掛かりなものではなく、
非常に小さいと言う意味で、設備名はピコ水力発電機。
元々この水力発電は、装置を開発した愛知県内の電気工事技術者が、
商品の試験設置・運用できる場を探しており、
知り合いの紹介が縁でその場を筧さんは用意した格好となりました。
気を付ける点としては、「導水管に詰まるものが流れてくるんですね、トチの実やクリの実、クルミも」。
こうしたものを取り除かなければ、
発電機内で回転する薄いアルミ製の羽根車が壊れる原因になりかねません。
当初は最大出力900Wの発電機1基で、発電した電気はすべて工房で使い切っていましたが、
今春にもう1基増設したことで発電能力は1.8倍程度に増え、
電力が余った場合に売電する可能性まで探り始めています。
何でも面白おかしく語る小柄な筧さんのどこに、これだけのチャレンジスピリットがあるのか不思議でもあり、またちょっぴり憧れでもあります。近々、獣害に悩むこの地区でイノシシの罠猟を行うため、狩猟免許を取りに行くそうです。
(小穴久仁)
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URL*** 母袋工房 ***「燻り豆腐」のお店E-mailmotai@giga.ocn.ne.jp
住所 | 岐阜県郡上市大和町栗巣1670-1 |
TEL/FAX | TEL:0575-88-3156 FAX:0575-88-3156 |
営業時間 | 8:00〜16:30 |
定休日 | お盆(8月15日~17日) 年末年始(12月31日~1月3日) |
2011年7月5日現在の情報になります。