全国に郷土料理は数あれど、どんぐりを材料に用いる郷土料理は、決して多くないでしょう。
昼食でお邪魔した郷土料理ひだみは、
王滝村に昔から伝わるどんぐり=ミズナラの実を灰汁抜きし、定食やお菓子の提供を続けています。
こちらで昭和63年11月の開店以来、どんぐりと向き合ってきた瀬戸美恵子さんから、
その魅力などを語って頂きました。
秋になると、ミズナラはまず実を落とし、それから葉が散ります。
落ちた実、つまりどんぐりは葉の布団で覆われる前に地元の方々が拾い、ここへ集められます。
「生の粉です、召しあがって下さい」と、瀬戸さんがどんぐりの粉を皿に広げてくれました。
味は苦くもなく渋くもなく。乾燥や焙煎を経ない、これがどんぐり料理のベースです。
「決して粗末にできませんよね、素材を活かし切りたいですし」と瀬戸さん。
料理の素材を自ら採ったり集めたり、そして調理。
季節を追いかけながら、でも同時に季節を待っている、一年はそんな感覚なんだそうです。
粉を買ってきました、肉を買ってきましたと言うような調達は、絶対にしたくないとも。
開店を控えたある日、試食会が催されました。
当時のどんぐりコーヒー(メニューではどんぐりこおひい)は、「マズイ」と完全にダメ出し。
これから先、やっていけるのかと自信喪失でした。
あれから20年以上、メニューはずいぶん充実し、
村人にも観光客にも受け入れられるどんぐりの郷土料理を確立しているようです。
瀬戸さんは、「この土地の素材を使ったおもてなしこそがご馳走」と考えています。
手間暇を掛けたどんぐりの粉の魅力について、
「お料理を作って初めて分かるものなんですよね。
他の材料を殺しませんし、不思議な魅力があるものです」と。
この魅力ある素材から料理のイメージを膨らませることが楽しく、
感じた幸せをお客さんへ伝えていきたいと、瀬戸さんは続けました。
レシピ開発を重ねた結果、最近は米粉商品が増え、
どんぐり関連では保存に手軽などんぐりサブレも生まれましたよ。
村内の湖の一つ「自然湖」では、春夏秋シーズンに楽しめるカヌーツアーのティータイムで、郷土料理ひだみのお菓子が付きます。ここで食べたお菓子が美味しいとツアー後に足を運んでくれるお客さんや、友人にあげたらとても喜ばれたからまた来ましたと話すお客さんが来店されることもあるそう。どんぐりの魅力を知る人がまた一人増えてくれた瞬間をとても嬉しく思うと同時に、どんぐりへとことん向き合って良かったなと思える瞬間でもあると、瀬戸さんは語ってくれました。 取材の後半に話題が広がるなか、瀬戸さんの「料理もお菓子作りも、楽しくて幸せじゃないと無理ですね」の言葉は、他の仕事でも趣味にも通じることだと思いませんか。 (小穴久仁)
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住所 | 長野県木曽郡王滝村3153-2 |
TEL/FAX | TEL:0264-48-2648 FAX:0264-48-2648 |
営業時間 | 9:00〜16:00 |
定休日 | 月曜日(祝日の場合は火曜日) |
2011年1月29日現在の情報になります。