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養鶏業を通じて環境負荷のかからない、安心・安全な食生活を提案する 「光玉朋園[こうぎょくほうえん]」
2014.04.19 更新

安心な卵は国産飼料を中心とした餌から

光玉朋園の鶏舎。写真は三重県藤原町にある鶏舎

勝路峠にある光玉朋園鶏舎内。

1月も終わりに近づいたある快晴の朝、大垣市上石津町下多良の勝路峠[かちじとうげ]の中腹にある
「光玉朋園」(代表 三輪唯夫さん)の鶏舎を訪れました。
彼方に見える鈴鹿山系には雪がかかり、
鶏たちのかまびすしい鳴き声が聞こえるほかはのどかな里山の風景が続くばかり。
敷地内には黄色い実をつけた柚子が何本も植えられていました。
鶏舎の中ではケージに入れられた鶏たちが餌をついばんでいました。
赤い卵を産むのが茶羽のボリスブラウン、ピンクがかった卵を産むのが白っぽいソニアです。
侵入者の私が気になるのか、大きな目でチラチラとこちらを見ている鶏もいます。
そんな中、従業員の女性が手慣れた手つきで採卵していました。

「光玉朋園」の鶏舎は上石津町に隣接する三重県いなべ市藤原町にもあり、僧飼育数は約2万羽。
養鶏農家としての規模はそれほど大きくはありませんが、
海外からの輸入飼料に頼る養鶏農家が多いなか、「光玉朋園」では地産地消をモットーに、
環境負荷のかからない安全な国産飼料を中心とした採卵養鶏に取り組んでいます。

(左)茶色がかった卵を産むボリスブラウン
(右)ピンクがかった卵を産むソニア

左がボリスブラウン、右がソニアの生んだ卵。比べてみるとこんなに色が違う。

採卵して卵の重さを量る

地元産の飼料米を使った「こめ米たまご」

「光玉朋園」が生産している卵は「元気卵」・「安心卵」・「こめ米たまご」の3種類。
黄身が盛り上がって濃厚な卵を生のまま、熱々ごはんに乗せて食べるとおいしさが引き立ちます。
「元気卵」は生後300日以降の鶏が産んだもので、飼料米が15%入り、
ビタミンA・Eは日本食品基準表より含有値が高く、コレステロールは17%少ないそうです。
「安心卵」は生後180日から300日までの鶏が産んだもの。
「元気卵」よりも鶏が若いだけに卵の殻が固くて割れにくいという特徴があります。

鶏の腸内細菌のバランスを整えるため、乳酸菌・納豆菌・酵素とヨモギなどを配合した餌が与えられており、
安心卵で使用するトウモロコシは非遺伝子組み換えのものを使っています。
「こめ米たまご」は地元上石津で無農薬を目指して活動している
三輪薫さん(ぎふクリーン農業・登録番号11番)のグループと
池井恵さん(ぎふクリーン農業・登録番号1511番)のグループが生産した飼料米のほか、
きな粉・牡蠣殻・魚粉などの国産の原料を99%まで使用。
鶏に飼料米を食べさせると黄身が白っぽくなるので、
外国産のパブリカ・マリーゴールドといったハーブの天然粉末を添加することで色味を保っています。

こめ米たまご。卵はずっしりと重く、重量感があり、黄身が盛り上がって卵ごはんに最適。

自然免疫にこだわった感染防御

これらの市場価格は「元気卵」230円、「安心卵」270円、
「こめ米たまご」350円(すべて10個分の価格)と、
大手量販店で販売されている卵に比べれば割高に思えるかもしれませんが、
餌や水に対するこだわりや養鶏に対する姿勢を聞けば納得できます。
「光玉朋園」では市販の配合飼料をそのまま使うのではなく、
配合飼料に添加物を混ぜ合わせてオリジナルの飼料を作っています。
鶏が体調不良のときは唐辛子やガーリックを餌に混ぜて与えると
体調が回復して餌をよく食べるようになるそうです。
また、整腸作用を促すため、鶏用の乳酸菌製品「ニューラクトバイオ」を混ぜることもあるとのこと。

農場では30年以上にわたり除草剤を使用しておらず、
鶏たちの飲み水には藤原農場に掘られた地下70mの井戸から汲み上げる新鮮な水を使用。
出荷の際に洗卵はしていません。
「大手量販店に出荷される卵のほとんどは、次亜塩素酸ソーダという薬品で洗浄殺菌されています。
しかし、もともと卵の表面には細菌の侵入を阻むクチクラ層という薄い膜があり、
洗うことでこれがはがれてしまうのです。ですから、うちでは洗卵せずに出荷しています。
ちなみに当社ではこれまで一度もサルモネラ菌が取れた事実はありません」と、代表の三輪唯夫さん。
天然由来の成分と鶏のもつ自然免疫力にこだわった養鶏方針にはうなずけるものがあります。

(左)コンテナ倉庫には魚粉や唐辛子、ガーリックなどの粉末がしまわれている。
夏の暑い時などは管理がたいへんだ
(右)餌の攪拌機

(左)飼料用のきなこ
(右)飼料用玄米

(左)飼料用米油
(右)整腸作用のある鶏用の乳酸菌製品「ニューラクトバイオ」

(左)藤原鶏舎にある井戸。地下70mから水を汲み上げている
(右)藤原鶏舎にある卵の自動販売機

コスパの追求から健康を重視した養鶏へ

三輪さんが養鶏を始めたのは42年前。農業大学校を卒業したばかりのころでした。
「当時、両親は栗畑を経営しており、鶏糞を肥料にするためブロイラーを飼っていました。
父親の栗畑の事業がうまくいっておらず、
両親の借金を返済しなければならなかったので鶏を育てる道を選びました」
三輪さんは生後50日~120日の大雛を育てていましたが、マレック病(人間でいう白血病)が
鶏の間で流行したため死亡率が高まり、取引会社が育成をやめるといってきたのです。
そこで三輪さんも方向修正し、採卵養鶏の仕事を始めました。
昭和60年代前半にはヨーロッパに視察旅行に訪れ、
当時主流だったウインドレス鶏舎(窓のない鶏舎)を見学。
窓のない鶏舎は温度のコントロールがしやすく、飼料効率が良いというメリットがありました。
卵を1kg採るために約2.1kg必要だったえさが、1.9kgですむようになったのです。
「光玉朋園」の鶏舎はヨーロッパのウインドレス鶏舎を日本風に改良し、
換気扇を回すことで空気の入れ替えをするというものでした。

しかし、ここで思いがけない悲劇が三輪さんを襲います。
火事で鶏舎が全焼。
逃げられず、悲鳴にも似た断末魔の鳴き声を聞いたとき、三輪さんの胸にある決意が生まれました。
それはこれまで行ってきたウインドレス鶏舎を使った養鶏に対する疑念でした。
「ウインドレス鶏舎は密閉しているので誇りがたまりやすく、換気が十分にできないために
病気が発生するとなかなか収束しないなど、鶏たちにとって環境が良くない。
それならばケージに入っている鶏たちを開放して太陽の光を当ててやれば紫外線で殺菌ができるし、
健康な鶏が育つのではないか」
当時、ヨーロッパでは動物愛護の視点で平飼いが広がり始めていました。
三輪さんは数年間将来の方向性を模索した後、鶏にとって自由度が高く、
ストレスが少ない平飼いに切り替えたのです。

しかし、やがて平飼いにもいくつかの問題があることがわかってきました。
鶏舎内は消毒することで細菌の繁殖を防げますが、運動場である鶏舎外の土の中には細菌や鶏の寄生虫がいて、
鶏がついばむとそれらが体内に取り込まれることで、病気や寄生虫が発生します。
抗生物質や殺虫剤の投与はできないし、土壌消毒もできない。土の入れ替えも大変な作業です。
飼育密度を低くすれば病気の発生率を抑えることができるけれど、経営的に成り立たなくなる。
外に出して土の上で遊ばせることをやめれば、寄生虫の発生は抑えられるが本当の放し飼いではない。
二律背反のジレンマに三輪さんの苦悩は続きました。

三輪唯夫さん。昭和24年生まれ。農業大学校を卒業後、養鶏の仕事に就く。

故所秀雄さんの志を受け継いで

さまざまな紆余曲折を経て養鶏業に携わってきた三輪さんには、
本当の父親以上に慕う人生の師がありました。
日本の養鶏産業を支えてきた「ゲン・コーポレーション」の創業者・故所秀雄さんです。
所さんは岐阜県不破郡垂井町出身。もともと農林官僚でしたが小農主義を提唱し、
退官後は長良川河口堰やウルグアイラウンド、市町村大型合併などに反対するなど、
経済至上主義に傾く日本に警鐘を鳴らしてきました。
三輪さんが所さんに出会ったのは採卵養鶏を始めて数年経ったころでした。
「所さんは『抗生から共生・フードマイルズ(food miles)』の大切さを言われていました。
また原発の危険性も指摘されていました。
そして、常々、『米は連作ができるし、環境にも良い。水田は水を蓄えるダムにもなる。
日本の米で鶏のえさをつくれば自給率も上がるし、足腰の強い国になる』と言っているのを聞いて、
自分も国産米を原料にしたえさで鶏を育て、卵を採りたいと思うようになりました。
所さんは20年先30年先が見えた人でした」。と三輪さんは語ります。

平飼いをやめた三輪さんは「光玉朋園」の経営指針に所さんから受けた薫陶を反映させ、
環境問題にも関心を持つようになりました。
「消費者にきれいで清潔な卵を提供するために卵の表面を殺菌すれば、見た目にはきれいになるけれど、
卵と一緒に化学物質が体内に取りこまれ、いろいろな弊害が起こってきます。
通信販売はしているけれど、ほんとは遠隔地に送ることに対しても疑問を感じています。
自然にさからうことで環境負荷がかかるから。
食料品の場合は地産地消が体にとっても環境にとっても一番いいと思う。
食を通して自分たちの暮らしを見直す時期に来ているんじゃないかなあ」と呟く三輪さん。
今、家の近くにに風力発電建設の問題が持ち上がっており、
先日は地元有志を募って風力発電の勉強会を開くなど、
地域の環境リーダーとしての役割をも担っています。

編集員のココがオススメ!

肉や魚などに比べ、比較的安価で用途の広い卵は家庭の常備食材。身近にあり過ぎて、ついつい軽く考えてしまいがち。しかし、食べ比べてみると本当に違います。特に「光玉朋園」のは生卵がおすすめ。えさと水と環境にこだわった採卵養鶏だからこそ、味わえるおいしさです。

(松島頼子)

施設情報

施設名 有限会社 光玉朋園
住所 事務所:岐阜県大垣市上石津町上鍛治屋97の1
農場:岐阜県大垣市上石津町下多良
農場:三重県いなべし藤原町坂本
TEL TEL:0584-45-2322
URL 有限会社 光玉朋園
定休日 火曜・木曜
営業時間 10時~12時・13時~15時まで

2014年1月30日現在の情報になります。

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