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【伊那市特集】焼き味噌に、辛味大根、刻みネギを加えた からつゆでそばを味わう郷土色豊かな「高遠そば ますや」
2012.05.23 更新

「高遠そば」は江戸時代から伝わる伝統の味。
焼き味噌と辛み大根で食べる。そばは高遠産の玄。ざるはすべて2枚ずつ。

味噌味のそばつゆで食べる高遠そば

 伊那市高遠町は桜の町。毎年4月半ばともなれば、
「高遠城址公園」に咲く1500本以上のタカトオコヒガンザクラを見に20数万人が訪れます。
取材当日の城址公園は、周囲をピンク色の綿雲に取り囲まれているような美しさ。
めざす「高遠そば ますや」は、
そこからほど近い国道152号沿いにある黒塗りのおしゃれな建物でした。
 お昼時でもあり、さっそくおそばをいただくことに。
しばらくしてでてきたそばは細切りの「玄」そば。
高遠産のそばを殻つきのまま石臼でひき、
芯に近い粉だけを使っており、やや黒みがかっているのが特徴。
風味が良くて透明感があり、ツルツルしています。
 そばつゆに加え、一緒に出てきたのはネギと辛み大根の薬味、
そしてしゃもじにつけられた焼き味噌!
 そばを味噌と一緒に食べるのは初めてです。
食べ方がわからずお店の方に尋ねると、
「焼き味噌をそばつゆで少しずつ溶きながら、薬味と一緒にお召し上がり下さい」とのこと。
言われた通りやってみると味噌のこうばしさが加わり、
そばつゆだけでは味わうことのできないコクが感じられました。
 「一口に『高遠そば』といっても、地域によって食べ方はいろいろ。
しょうゆだしは使わないでしぼり汁に大根を少し混ぜる所もあれば、
そばをゆでてさらした水をだしに使う所もあります。
この辺りは江戸風のつゆに焼き味噌を入れる所が多いですね。
うちのは味噌が少し強めで、その分つゆは薄くしてある。
おふくろがこういう作り方だったんです」というのは、「ますや」のご主人守屋さんです。

「高遠城址公園」遠望。
ピンク色のタカトオコヒガンザクラが雲のように周囲を包み込む。

「高遠城址公園」からほど近い所にある「高遠そば ますや」

シックな雰囲気の店内。

名君、保科正之が愛した郷土の味

「玄」高遠産のそばを殻ごとひいて、その中心部を使う。
透明感があり、ツルツルしたのど越しが特徴。

「高遠おろし」高遠産の玄に、辛味大根、鰹節、ネギがのっている。
皿の中で焼き味噌をつゆで溶いて食べる。コクがあっておいしい。

 実はこの「高遠そば」、もともと高遠の山間部にのみ伝えられていたのだそう。
米がとれないので、そば文化が遅くまで残っていたと考えられます。
ネーミングのルーツは名君とされる保科正之の会津移封に関係しているらしいとのこと。
 高遠3万3千石の主だった保科正之は徳川3代将軍家光の異母弟であり、
有能であったことから後に会津23万石の城主に引き立てられますが、
その際に連れて行った多くの家来の中には農民も含まれていたとされ、
高遠の食文化も一緒に会津へ伝えられたようです。
 20年ほど前に高遠のライオンズクラブが
会津を訪れた際に発見したそばの名前が高遠に逆輸入され、
呼称として使われるようになったとか。
味噌味のつゆが「からつゆ」と呼ばれるのに対し、
しょうゆベースのつゆは「あまつゆ」と呼ばれます。
「そば切りが作られるようになった江戸時代初期、しょうゆは庶民にとって貴重品。
ですから、簡単に手に入る味噌をつけて食べられていたのではないでしょうか」と守屋さんは語ります。
 また「高遠そば」に欠かせない辛み大根も本来高遠の特産でしたが、
絶えてしまい、会津で「あさぎ大根」として生き残っていたものを逆輸入しました。
会津では辛み大根を「たかど」と呼びますが、これは「高遠」がなまったものだそう。
「うちでは辛み大根もネギもそばも自家栽培していますが、
足りない分は『高遠そば組合』から購入しています。
標高が高く寒暖の差がある高遠のそばは甘みが強くてとてもおいしいですよ」

ひき方や打ち方が異なるそばを堪能

(左)そばをひく石臼。
(右)青々とした「ますや」の栽培するそば畑。写真は昨年のもの。守屋さん提供。

店主の守屋さん。Uターンして高遠に戻り、6年前に開業。
とあるそば屋のおやじさんに憧れてそば屋を志したという。
気さくで親しみやすい人柄だが、そばに対するこだわりは人一倍。そばの食べ歩きも大好き。

 「高遠そば ますや」では高遠産の「玄」そばのほか、
殻を取り除いてひいた「抜き」と呼ばれる薄緑色のそばを食べることもでき、
こちらは八ヶ岳山麓産。
ひき方や打ち方を選べるのもこの店ならでは。
「合い盛り」といって、「玄」と「抜き」を1枚ずつ注文することもできます。
 またそばつゆは二年物本枯れ本節を削り出してとる本格派。
ここにもおいしさを追求する守屋さんのこだわりが感じられます。
 そばは日本のソウルフード。
「高遠そば」はこれからも伊那の食文化として、多くの人々に愛されつづけていくことでしょう。

編集員のココがオススメ!

そばと焼き味噌。この斬新な組み合わせに驚き、実はそれがそば切りの食べ方の原形だと知って、またまたびっくり。自家製粉の手打ちそばは大変おいしく、細めの麺も私好みでした。いつぞや、そば粉を切らしてしまって高遠産でないそば粉を使ったことがあるそうですが、味が全然ちがったそう。甘みがギュッとつまった「高遠そば」、一度味わうと何回でも食べたくなります。

(松島頼子)

 

施設情報

施設名 高遠そば ますや
住所 長野県伊那市高遠町東高遠1071
TEL/FAX TEL:0265-94-5123
E-mail soba@massya.com
URL 高遠そば ますや 伊那市高遠町の石臼碾き自家製粉そば処

2012年4月26日現在の情報になります。
 



 

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