奈良・平安時代の昔から焼き物がつくられていた、愛知県猿投。
縁の深い地に「喜中窯」を構え、味わいある作品を手がける陶芸家が、河村喜平さんです。
30年以上無人になり、半壊していた窯を復興。
平成11年に再び火を入れたのでした。
以来、作陶に打ち込むとともに、文化活動にも力を注ぐ河村さんに、
日々の仕事の醍醐味や町の魅力を語っていただきます。
美しい焼き物をつくるには、何より土が重要。
河村さんが使うのは、窯からほど近い猿投(平戸橋)の陶土です。
この辺りをはじめ豊田市は「資源に恵まれたところ」と河村さん。
「粘土をはじめ、釉薬の原料、薪、水などが質、量ともに豊富です。
なかなかこうした土地はないんですよ」。
もともと、この地に築窯した祖父の喜太郎さんも、「宝の山」と称したそうです。
一方で、一般の調合された土に比べ、「くせが強い」のだとか。
「普通なら思い通りの形にできるのに、ここの土は扱いづらくて。
曲げようとすればヒビが入る、持ち手を付ければ落ちたり歪んだり…。
しかしその分、つねに土の状態を見て、問いかけ、対話しながら仕事ができます。
このスタイルが私には合っていますね」。
土と火という自然が働きかけるため、予期しない作品が生まれる場合もあります。
「同じ土と釉薬を使っても、時に、全然違う器になってしまう。
土と火が、いろいろな変化を見せてくれるわけです。
こちらが100%を超えて105%がんばれば、土と火が味方してくれることがある。
自然がプラスαの仕事をしてくれます」。
「喜中窯」の原点は、祖父の喜太郎さんが昭和25年に築窯した「さなげ陶房」。
京都の陶芸家であった喜太郎さんは、良質の土のあるこの地に窯を築きましたが、
後に、鎌倉の北大路魯山人陶房跡へ活動の場を移します。
河村さんは4歳のときに豊田市を離れ、陶房には誰もいなくなりました。
33年後、河村さんは窯を修復するため故郷へ戻り、「喜中窯」を開いたのでした。
再興にあたって、初めは不安もありました。
「親しい知人もいませんし、窯の周りは住宅地になっていましたから。
ですが皆さんにご理解いただき、開窯できました。
印象深いのは、地域の助け合いの心ですね。
まだ知り合って数カ月の私に、
青年会議所の方々が窯開きのサポートやお客様のアテンドを率先して引き受けてくれたのです。
枯れ葉やごみの片付けまでしてくれ、びっくりしました。
こうした人の温かさや純粋さも町の魅力です」。
さらに最近は、豊田市のよさを積極的に発信しようと、
「地産地消」をテーマにしたイベントを毎年開催しています。
地元の土と窯で焼き上げた河村さんの器に、
創業150年近い酒蔵の地酒と、会席料理が彩られる美食イベントが、
今年も11月いっぱい実施される予定です。
河村さんが手がけるのは、皿、小鉢、湯呑みなどの食器、酒器、壷などさまざま。
これらはただ飾るのではなく、「どんどん使ってほしい」と強調します。
「陶器は使い込むうちに、色合いが落ち着き、手に馴染んできます。
使い手が日々育てていってほしいですね」。
料理が映える皿、手にしっくりとくる小鉢、飲み口がほどよい薄さの湯呑み…。
こんなうつわがあれば、毎日の食卓が一層豊かになりそうです。
河村さんの湯呑みでお茶をいただいたら、とてもまろやか! うつわで味に違いが出るのかと驚きました。河村さんの作品は、白い化粧土が施された粉引や、灰を釉薬として使った灰釉陶器など、落ち着いた雰囲気の器が多く、使い勝手がよさそう。質の高いものを日常づかいできたら豊かだと思います。 また、美食イベント「晩秋の特別会席」は11月1〜30日までホテル「FORESTA HILLS」(豊田市岩倉町一本松1-1)の和処「花乃里」で開催(要予約)。「花乃里」では河村さんの作品を常時展示・販売しています。また、喜中窯で陶芸教室もあります。 (南 由美子)
|
名称 | 喜中窯 |
住所 | 〒470-0331 豊田市平戸橋町波岩62 |
TEL/FAX | 0565-45-2333 |
2011年10月4日現在の情報になります。