岐阜県白川町は、飛騨川へ流れ込む赤川、黒川、白川、佐見川の各流域に形成された集落からなる町です。町の総面積の9割近くが山林で、林業が盛んな地域でした。海抜150メートルから1233メートルの高低差があり、平野は全体の5%程度ですが、水に恵まれているため、稲作をはじめ、お茶や大豆、夏秋トマトの栽培などが行われています。
自然豊かな白川町で最近、注目されているのが有機農業です。今回は、有機農業で地域の活性化に取り組むNPO法人ゆうきハートネットの西尾勝治さんにお話を伺いました。
「団体として有機農業に取り組む前に、名古屋の消費者グループから安心安全な米を作ってほしいという要望があり、5人の農家が試行錯誤しながら減農薬で米作りに取り組んでいたんです。その後、1998年に有機農業に関心のあった農業従事者10人が集まり、任意団体として発足したのがゆうきハートネットです。2004年からは有機農業のノウハウを持つ栃木のNPO法人民間稲作研究所とともに、本格的に有機農業に取り組み始めました」と西尾さん。
2006年に有機農業推進法が成立したこともあり、2009年には町と一緒に「白川町有機の里づくり協議会」を立ち上げ、農協はじめ有機農業に関心のある他団体とともに有機農業を実践するモデルタウンづくりを推進してきました。
「協議会発足から4年間、国の補助も得て様々な活動をしました。その一つが、くわ山結びの家(2010年完成)の建設です。有機農業の体験や研修をする人たちの宿泊施設として利用したり、イベントなどに参加する一般の人々が交流する場になっています」。
田植えや収穫などの体験交流イベントや、技術向上のための講演会開催、新規就農支援、農産物の販売促進といった活動をしていく中で、2011年にはより幅広い活動を目指して、NPO法人ゆうきハートネット設立へと至ります。
白川町有機の里づくり協議会としての活動を終えてからも、NPO法人ゆうきハートネットは、有機農業で町を活性化するための様々な取り組みをしています。有機農業の技術を学べる講演会を定期的に開催したり、有機栽培に適した米の苗づくりをメンバー全員で行ったり、新規就農者への支援をしながら、有機農業の普及に努めています。
また、メンバーそれぞれが複数の団体に所属しながら活動をしています。その中の一つ「郷蔵米生産組合」では、田植えや収穫、ホタルを見る会などのイベントを年に数回、催しています。「はざ掛けトラスト」や「大豆畑トラスト」という団体では、会員を募って出資をしてもらい、収穫物を届けるプロジェクトを運営しています。
ほかにも、名古屋市中区栄で開催される「オアシス21オーガニックファーマーズ朝市村」へは、毎回、数名の農家が参加して有機農産物の販路拡大につなげています。
「現在、町内の販売農家598軒のうち、33軒が有機農業の農家です。水稲(すいとう)耕作面積242ヘクタールのうち、6.4%が有機農業地です。この割合は、全国的に見ても高い数字です」と西尾さんは言います。
新規就農者も多く、これまでに21軒49名(子どもも含む)がIターンで移住し、有機農業を行っています。移住者のうち30代の世帯が7割を占め、会社勤めを辞めてはじめて農業をする人も少なくありません。こうした背景には、積極的に研修生を受け入れたり、メンバーがコーディネータになって農地や空き家を紹介したりするなど、ゆうきハートネットによるきめ細やかな支援があります。「地域住民が外からの移住者に寛容な気風がある点も大きいですね」と西尾さんは言います。
農業従事者の高齢化で遊休農地が増加していたところ、有機農業に関心のある人たちが移住して農地を復活させ、さらに若い世代の中には移住後に子どもが生まれ家族が増えるなど、町は有機農業による活性化が進んでいます。
2016年6月17日取材時の情報です。
ライター:田中マリ子
施設名 | 特定非営利活動法人ゆうきハートネット |
住所 | 岐阜県加茂郡白川町黒川153-3 |
TEL | 0574-77-1638 |
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