東に伊勢湾、西に鈴鹿山脈がある三重県鈴鹿市。夏は海からの湿った空気が入り、冬は冷たい季節風「鈴鹿おろし」が伊勢湾へと吹き抜けます。
この土地ならではの風土を生かし、伝統製法で味噌やたまりを手がける「東海醸造株式会社」。今では、鈴鹿市に唯一残る味噌の醸造元です。番頭の本地猛さんにずっと受け継がれてきた味噌作りについて聞きました。
東海醸造の創業は江戸時代の元禄年間。以来、300年以上もの歳月、鈴鹿の地で味噌やたまりを作っています。
江戸時代からずっと守り継がれているのは、四季の寒暖を生かした天然醸造。蔵内の温度をコントロールせず、自然環境と蔵や木桶にすみつく酵母菌や乳酸菌に任せて大豆を発酵熟成させます。
味噌の仕込みに使うのは、鈴鹿産を中心とする国産大豆。塩は瀬戸内海の海水塩です。この塩はにがりの量が多く、大豆を熟成させると旨みや甘みを引き出すそう。熟成期間は実に3年以上といいます。
「実際に出荷するのは6〜7年熟成した味噌。時間をかけると複雑な発酵をし、味に深みが出るんですよ」と本地さんは教えてくれました。
一方で、一般的な味噌のなかには、加温して強制的に発酵させ、3カ月ほどで仕上げるものや、家庭で調理しやすいよう味噌をメッシュで漉してきめ細かくしているものもあるそうです。
「蔵で発酵するのは、気温が上がる夏の間だけ。冬は冬眠している状態です。人間が睡眠を十分にとった方がよい仕事ができるように、味噌も休む時間があってこそおいしくなると思います。ここでは味噌に熱を一切加えず、特に要望がない限りメッシュを通すことはしていません。できる限り人工的なストレスをかけたくないですからね」。
ゆっくりじっくり作られた味噌は味と香りがのって、豊かな風味とコクが醸し出されています。
蔵では杉の木桶に2トンの大豆を仕込み、上に重石を敷き詰めて熟成。熟成が進むにつれ、大豆のもろみは固体と液体に分離して、黒褐色のたまりがしみだしてきます。東海醸造では、木桶の底にトンネルを作り、重みでしみだすたまりを瓶詰めに。貴重な7年ものを販売しています。
市販の商品は、香り立ちを考慮して小麦を1〜2割程度加える製法が多いですが、ここの原料は大豆のみです。長期熟成によって大豆たんぱくの旨み成分が凝縮。濃厚な味わいと独特の濃い色合いが特徴です。
たまりは、東海醸造の長い歴史の中で受け継がれてきました。同時に、三重県の食文化に大きな影響を与えてきた調味料だと本地さんは話します。
「三重県は縦に長く、それぞれの風土で育まれた、海の幸や里の幸がたくさんあります。それを生かした郷土の食に、たまりが名脇役として活躍してきました。たとえば、桑名の蛤しぐれ、津のうなぎの蒲焼、松阪のすき焼きや牛しぐれ、伊勢うどん、尾鷲や熊野のみりん干…。実に多くの地域で使われていますよね。たまりで煮ると素材が柔らかく炊き上がりますし、テリやコクも出る。付けだまりでお刺身を食べるのもいいですしね。三重県の食文化に貢献してきた味といえます」。
さらにこれからも、伝統の食文化を支えていきたいと力を込めます。
「地元の学校給食では、鈴鹿産の大豆で仕込んだ当社の味噌を使っています。未来を担う子どもたちにも、受け継がれてきた味が親しまれ、伝わっていってほしいですね。また、昔ながらのよいものとよいものを掛け合わせて、新しい名物をつくっていけたら。ほかの作り手とコラボレーションもしてみたいです」。
伝統を守りつつ、新しい展開を試みる。時間と自然が育てた発酵調味料が、地域の食をより味わい深く豊かにしてくれそうです。
2016年2月9日取材時の情報になります
ライター:南由美子
施設名 | 東海醸造株式会社 |
住所 | 三重県鈴鹿市西玉垣町1454 |
TEL | 059-382-0001 |
営業時間 | 8:00〜17:00 |
定休日 | 土日祝 |
ougon-tamari@fine.ocn.ne.jp |