キクの花と聞くと、どんなイメージがありますか? お供えなどの白い輪菊を想像する人も多いかもしれませんが、品種改良された西洋種は世界でマムとよばれ、色、形ともに実に種類豊富。日本一のキク産地、田原市でマムを栽培する生産者をたずねました。
訪れたのはマムの生産販売と園芸資材の輸入販売を行う「ジャパンフラワードリーム」。この会社で営業を担当する藤目健太さんにお話を伺いました。
藤目さんの会社ではマムの本場であるオランダからハウス資材や園芸資材を輸入し、最新の栽培技術を取り入れ、合理的なマム作りに取り組んでいます。もともと藤目さんのお父さんが研究熱心な生産者。息子である藤目さんと弟さんも家業に参加し、三人を中心に会社を運営しています。
作業場に足を踏み入れると、出荷間近のマムがたくさん並んでいます。
「これ全部マムなんですよ。最近はブライダルの装花やブーケ用によく使われていますが、みなさん知らないだけなんです。例えばこの花。ダリア?って言われることもありますが、オペラという品種で、ダリアが有名になる前からあるものです」。
日本でのキクの歴史は古く、古今集にキクについての歌が見られるなど、日本人に愛されてきた花。五節句のひとつ、重陽の節句は菊の節句とも呼ばれ、長寿を願う菊酒に使われたり、正月飾りの縁起物としても親しまれてきました。
「キクというと葬祭用のお供え花のイメージが強いですが、本来、桜と並ぶ日本の国花。日本のキクがオランダをはじめヨーロッパに渡り、品種改良されたのが西洋菊とよばれるマムです。ヨーロッパではお祝いや誕生日に贈る花として親しまれています」。
マムの特徴のひとつが、日持ちがとてもよいということ。「マムはしっかり管理すれば一ヶ月以上楽しめますよ。日持ちのよさもありブライダルの装花として人気上昇中です。ダリアは日持ちしないため、式の前日などギリギリにしか準備できませんが、マムなら数日前から準備できるので花屋さんにも好評です」。
生産の現場を見学しました。まずはピートモスというマムを育てるために成分調整をされた土を、ブロックマシーンという機械でブロック状にする作業から始まります。そして出来上がった小さなブロック状の土の塊にマムの苗を一本ずつ挿し、ある程度根が生えるまで育ててから土壌に定植します。直接苗を畑(土壌)に植えるより根腐りなどが防止でき、よい花が育つのだそう。
ハウスは、オランダで主流のフェンロータイプと呼ばれる大型施設。現地から導入して、同じ仕様でマムを育てています。このハウスの広さは約1000坪、室内はとても天井が高く広々としています。
「天井が高ければ高いほど室内に熱が籠らず、室外の環境に近くなるんですよ。風通しもいいから夏でもそんなに暑くなりません。通常のガラス温室だと熱が籠って温度が上がりすぎますが、このハウスは涼しいですよ。水やりも上からスプリンクラーでシャワーのように与えます。従来だと地面にパイプを這わせて下から与えますが、本来、水は雨として上から降ってきますよね。日照や温度、水やりなど自然に近い状態で育てることを大切にしています」。
冬の暖房も通常はボイラーで温風をハウス内に送り込みますが、温筒管というパイプを張り巡らせ、この中に温水を通すことで室内の温度を管理。温度ムラをなくし、常時一定の温度を維持できるのだそう。
そのほか、通常の電球の100倍の明るさを発揮するナトリウムランプや多数の換気扇、ベルトコンベア式収穫機、大型冷蔵庫など最新の設備を配置。
「本場オランダと同じ環境だというと、みなさん驚かれますね。マムも生き物なので、人と同じように快適な環境で育ててあげることが、よい品質につながると考えています」。
藤目さんも前回記事で紹介した「花男子プロジェクト」の参加メンバーの一員。生産者として、マムへの思いをこう語ります。
「今や世界中で愛されている日本の国花であるキクですが、万国共通のマムという名前は日本人にはまだ浸透していません。重陽の節句など昔から親しまれている意味のある花だということや文化を知ってもらい、イメージアップを図っていきたいですね。生産者の側も知ってもらう努力をするべきなんじゃないかな。
今後の目標は従来のキクのイメージを覆すような魅力的なマムを生産し、多くの人にマムを知ってもらうこと。そしてもっと身近に花のある国にしていきたいですね」。
2015年5月8日取材時の情報になります
ライター : 梅田美穂
施設名 | (有)ジャパンフラワードリーム |
住所 | 愛知県田原市高松町谷倉63 |
TEL | 0531-45-3655 |
営業時間 | |
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