私たちが日々の暮らしで利用している加工食品。その品質の向上や開発に関して、作り手である企業をサポートする機関があります。
メーカーから依頼された食品の成分分析をはじめ、技術指導、共同で商品開発を行うなど、愛知県の食品産業を支える「食品工業技術センター」を訪問しました。
愛知県内の企業への技術支援を目的とする「あいち産業科学技術総合センター」の食品部門が「食品工業技術センター」。所在地は名古屋市西区です。
この日取材に応じてくださったのは、発酵バイオ技術室室長の石川敬一さん。
「愛知県は自動車産業をはじめ、モノづくりの盛んな地域です。県の産業別出荷額を見ると、クルマ、鉄鋼に次いで食料品が第3位。また都道府県別の出荷額においても全国第3位と、食料品は愛知の主要産業のひとつなんです」と石川さん。
さらに詳しく教えて頂くと、食酢、洋生菓子、ビスケット類、あん類は全国第1位の出荷額を誇り、意外なことにビールの出荷額も全国第2位(以上のデータは平成24年度のもの)。なるほど、愛知県は食品産業もトップレベルなんですね。
「愛知県では県内のモノづくり産業を支援するために、県内6ヶ所で機械、金属、窯業、繊維、食品などさまざまな産業に関する技術センターを運営しています。私どもは食品の専門機関として、日々企業さんからの様々な相談への対応や、技術指導を行っています。また、自分たちでもテーマを設けて食品の研究に取り組んでいます」
企業からの相談で多いのが「依頼試験」。これは主に食品の栄養成分や機能性成分などの分析を行うもの。加工食品のパッケージにエネルギーやタンパク質、脂質など栄養成分の表が記載されているのを目にしますが、こういった施設で行われているんですね。そのほか、食品に異物が混入した時の原因究明やクレーム品の検査、包装材料の性能評価なども行っています。
ユニークなのが「官能検査」。これは新商品の開発時などに、食品の味や香り、食感などを人の五感により評価するもの。さらに専用機器で歯ごたえをデータとして測定することも出来るとのこと。新商品の開発相談にも応じています。
「中小企業の場合、大手のメーカーさんのように自社で分析したり調べることは難しいので、私どものセンターでそのお手伝いをしています。つまり中小企業の技術サポート、コンサルタントといったところでしょうか」と石川さん。
続いてセンター内を案内していただきました。この日はちょうど、醸造メーカーの従業員を対象とした日本酒作りの講習会が行われていました。新製品や新技術を生み出す人材育成のため、こうした講習会の開催や研修生の受け入れも行っています。
ほかにも試作や技術開発に使うため、オーブンや蒸し器、餅つき器などの製造機械がメーカー同様に揃った調理室など、興味深い部屋を見学しました。
最後に見学したのが、酒類試作室。日本酒を作るための精米から麹づくり、仕込み、熟成、火入れ、瓶詰めまでの工程を、一般的な酒蔵と同様に行える施設です。
全国の自治体にも産業技術センターはありますが、食品部門が独立した研究所を持っているところは少なく、またこれだけの敷地と設備を持っているところは珍しいそう。
「愛知県はお酒の生産量が多く、メーカーさんも多いのでいろんな相談を受けます。酒づくりはとても洗練されており、ちょっとしたことで品質や味が変わってしまいますから、ありとあらゆる相談がありますね。ですからこうした本格的な試作室を設け、自分たちでも酒づくりを行うことで知識を増やし、技術支援や研究に役立てています」。
食品工業技術センターへの思いを石川さんが話してくれました。
「このセンターは目立つ存在ではありませんが、日々いろんな企業さんから相談があり、信頼されていることを感じています。中小企業のお手伝いが我々の仕事なので、商品づくりで困っていたり悩んでいる県下の食品業の方たちに、もっと活用していただきたいですね。また一般の方と直接関わることはありませんが、こういう存在があることを知っていただけると嬉しいです」
今や日々の食生活に欠かせない加工食品が私たちの食卓に届くまでには、このような方々の支えがあるんですね。「縁の下の力持ち」という言葉がぴったりな施設だと思いました。
2014年6月11日取材時の情報です
ライター : 梅田美穂
施設名 | あいち産業科学技術総合センター 食品工業技術センター |
住所 | 愛知県名古屋市西区新福寺町2-1-1 |
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