岐阜のまちを訪れる人は皆、「水がおいしい」と言います。
それは良質な長良川の伏流水を、日々の暮らしのなかで使っているから。
長良川のおいしい水から生まれた、おいしいものを紹介します。
岐阜の町で古くから麩と湯葉を作り続けている専門店があります。創業天保7年(1836年)以来、178年続く老舗「麩兵」です。
6代目店主の川島徹郎さんにお話を伺いました。
「生麩の原料は主にグルテンと水、餅米粉の3つだけです。原料としてお水を使うだけでなく、小麦粉からグルテンを抽出する時、生地を成形し釜で茹でたり蒸す時、釜から上げて流水で冷やす時と、製造にはたくさんの水が必要です。うちではずっと長良川の伏流水、井戸水を使っています」
伏流水とは、川の水が川底に浸透して水脈を作る浅い地下水で、地中の砂などで自然のろ過が行われるため、水質がとても良好。
岐阜の町では上水道の原水や井戸水に、このきれいな水をくみ上げて使用しています。
「岐阜の人は、長良川のお陰で断水や節水を経験したことはほとんどないんじゃないかな。僕たちは豊かでいい水に恵まれていると、川に感謝しています。
それにうちは水をたくさん使う商売だから、ここじゃなきゃやってこられなかったかもしれません」
麩づくりは材料がシンプルだからこそ、その質がとても大切。良質な長良川の水が、おいしい麩を作っているんですね。
お店には定番の生麩が常時10数種類並びます。もちもちの食感が魅力の麩は、煮物やすき焼き、お吸い物などで食されることが多いそう。「うちのは生でも食べられますよ」と川島さん。
青のりやよもぎを入れた生麩で、自家製餡を包んだ麩まんじゅうも人気。こちらは上品な甘さと口当たりでお茶請けにぴったりです。
続いて紹介するのは、長良川の水で作った「長良川サイダー」。
透き通ったボトルと美しいラベルが目を惹く、このサイダーを製造販売しているのが伊奈波商會の金森正親さん。「自分たちが生まれ育ち、暮らしている岐阜のまちは、長良川の恵みがあってこそ。だから川に恩返しがしたいと考えたんです」。
原料となる水は、鏡岩水源地から分けてもらう長良川の伏流水。透明感のある味にこだわり、グラニュー糖で甘味をつける昔ながらの製法で作っています。
「長良川のきれいな水を、そのまま感じさせるものを作りたかった」と金森さん。
すっきりとした甘さとほどよい炭酸の効いた、どこかなつかしい味わいのサイダーは清流長良川のイメージそのもの。新しい岐阜土産としても人気を集めています。
「長良川への恩返し」として、金森さんは源流の森の再生にも取り組んでいます。
今年5月に「長良川サイダーの森を植えよう」という植樹活動を、郡上市明宝村のせせらぎ街道で現地の環境団体と一緒に実施。サイダーの売り上げの一部が苗木の購入費に充てられます。
「山の木を伐採した跡地をそのままにしておくと、森が砂漠化して土砂が川に流出し、川の汚濁の原因になってしまうんです。また森には雨水を蓄えて、安定した川の流れを保つ大切な役割があります。
源流の森林を守ることは、長良川の水を守るということ。森を育てるには50年以上、孫やその先の代までという長い年月が必要ですが、今から始めないとダメだと思うんです」
岐阜のまちと長良川への思いから生まれたサイダー。ぜひ味わってみてください。
岐阜のまちで人々に愛され続けている、鮎菓子という和菓子があります。
カステラ生地で求肥を包み、焼き印でアユの目やヒレをつけた、なんとも愛らしい焼き菓子。
お店によって鮎の顔や形、食感、味が異なり、まちの人はそれぞれにひいきの鮎菓子があるのだそう。
おいしいと評判の鮎菓子を作る「亀甲屋本舗」の8代目、寺澤隆浩さんにお話を伺いました。
亀甲屋では「うかい鮎」と呼んでいます。
「鮎菓子はとても岐阜らしいお菓子だと思います。素朴なアユの形から自然と長良川や鵜飼を想像できますよね。そういう“岐阜らしさ”を与えてくれるのが、長良川なんだと思います」と寺澤さん。
うかい鮎は、鵜飼の見物客にはもちろん、地元の人の手土産や普段のおやつとしても人気です。
亀甲屋の工場でも長良川の伏流水を使用しています。
「和菓子屋は餡を炊く時やお菓子を蒸す時など、たくさんの水を使います。長良川のおいしい水がおいしい和菓子を支えてくれているのだと、感謝しながら作っています」
うかい鮎を頂いてみました。ふんわりやわらかな生地に求肥がたっぷり。ほっとする優しい味です。
まちの人に愛され続けているのもうなずけます。
2014年5月30日、6月10日取材時の情報になります。
ライター : 梅田美穂