三重県の津市立櫛形小学校(同市分部)で2014年1月24日、
地元の漁師さんによる出前授業が行われました。
講師をつとめたのは、市内で漁業を営む伊藤彰啓さん、稲垣大輔さんで、同校の5年生12名が受講しました。
同市の地先に広がる伊勢湾で、シラスやコウナゴ、カタクチイワシなどを獲っている伊藤さんと稲垣さんは、
青年漁業者の中心的な役割を担う「青年漁業士」の認定を県から受けており、
今回のような出前授業で講師をつとめるほか、漁獲した魚を使った商品開発や学校給食への提供など、
さまざまな活動を地域で行っています。
生徒たちは、伊藤さん、稲垣さんが行っている漁の様子や漁師の仕事、漁獲される魚について、
クイズもまじえ楽しみながら学び、チリメンのなかに混じっているいろんな生き物をさがす、
チリメンモンスターを使った体験学習などを通して地元の海への理解を深めました。
授業が始まると、子どもたちは「よろしくお願いします」と元気な声であいさつ。
県津農林水産商工環境事務所水産室の主査・藤島弘幸さんが、
「伊勢湾でチリメンと言えば何の子?」、
「この日の漁場はどこ?」、
「広い海でどうやって場所を選んでいるの?」、
「三重県から何隻が出漁しているの?」などと生徒に質問。
伊藤さん、稲垣さんが行う、地元で「バッチ網漁」と呼んでいる船びき網漁業について、
クイズをまじえて説明しました。
伊藤さん、稲垣さんも、生徒からの質問に笑顔で答えながら、
日々行っている漁についてわかりやすく解説。
授業を通して子どもたちとの交流はどんどん進み、教室中に笑い声が何度も響きました。
伊勢湾でたくさん獲れるカタクチイワシの子どもを主に、チリメンは加工してつくられます。
伊藤さん、稲垣さんが漁船に乗り込んで漁にむかうのは、まだ空が暗い朝の3時。
このときの授業で示した漁場は、
所属する市内の白塚漁港から1時間くらいの、中部国際空港の周辺ですが、
ほかにも伊勢湾の湾奥や湾口のほうなど、別の場所に網を入れることもあるそうです。
広い海のなかで、魚がたくさん群れている漁場を魚群探知機でさがし、操業を行うのです。
船びき網漁を行う漁船は、三重県だけで約250隻あり、コウナゴ漁の最盛期には、
愛知県の漁船を含めると1000隻以上が湾内で密集し、網をひいて魚を獲ります。
「自分の船がどこにいるのかわからなくなって迷子になる。夜にライトを点けたら夜景みたい」。
伊藤さんと稲垣さんの熱のこもった語りに、子どもたちは視線をさだめてじっと聞き入ります。
2隻の漁船でゆっくりひく網は、長さが約200メートルで、幅は15メートル。
「体育館どころか、校舎がグラウンドごと入る」というその大きさに、
先生たちからも驚きの声があがりました。
伊勢湾のなかでも、トップクラスの水揚げ高を誇るという白塚漁港。
カタクチイワシをねらう際には、1回の網入れで約12トンも漁獲があるそうです。
「津は漁業のイメージがないかもしれないけれど、じつは盛ん。
獲ったチリメンやコウナゴはスーパーにならびます。
彰啓さんや大輔さんのことを思い出して、ぜひ食べて」と、藤島さんは生徒たちに語りかけました。
続いてグループにわかれ、
用意されたチリメンのなかに混じっているさまざまな生き物を見つけて観察する、
チリメンモンスター探しが行われました。
生徒たちは、漁師さんのアドバイスを受けながらピンセットを手にもち、
チリメンのなかに隠れているほかの生き物を夢中になって採取。
マアジやスズキ、アナゴやタコ、シャコやカニなど、10種以上の生き物の子どもが見つかり、
生徒たちは図鑑と見くらべながら、一つひとつの名前を確認しました。
藤島さんの話によると、伊勢湾に生息し、食べることのできる魚介類の数は100以上にのぼるそうです。
「漁師さんが魚を獲り、たくさんの生き物が棲むことのできるすばらしい海を大事にしてほしい。
漁師さんたちが獲ったものだということを思い出して、伊勢湾であがった魚を食べて」。
笑顔で子どもたちと会話する伊藤さん、稲垣さんを前にして、藤島さんが生徒たちに訴えました。
地元の海や漁業について、楽しく学んで理解を深め、講師と生徒の交流がすすんだ授業は、1時間で終了。
授業を見守っていた奥村茂校長は、
「子どもたちがとても喜んでいた。これが一つのきっかけになって、地元の漁業に興味をもってくれれば」
と満足の様子で話しました。
伊勢湾に面した同市ですが、海からだいぶ離れた山里にあるこの小学校に通う生徒たちにとって、
今回の漁師さんによる出前授業は、とても新鮮な体験になったはず。
たくさんの発見や驚きは、地元の海に対する興味へとつながり、
新たな好奇心をはぐくむ貴重な時間になったのではないかと思います。
(新美貴資)
2014年1月24日現在の情報になります。