岐阜市の中心部を流れる清流、長良川。
緑豊かな金華山と共にこの町のシンボルとして、古くから人々に親しまれています。
岐阜出身の私にとっても、長良川と金華山は見るたび「帰ってきたなあ」とほっとした気持ちになる存在。
ある日、そんな長良川の水を使ったサイダーと出合いました。
きれいなガラス瓶とどこかなつかしさを感じるパッケージがなんとも素敵で、
どうして作られたのか詳しく知りたくなり、取材に出かけました。
今回取材に応じて下さったのは、「長良川サイダー」を製造販売する伊奈波商會代表の金森正親さん。
なぜ長良川の水でサイダーを作ろうと考えたのか。そのあたりからお話を伺ってみました。
「岐阜の水道水は“おいしい”とよく言われるのですが、
それは良質な長良川の伏流水を原水としているからなんです。
長良川サイダーは、このおいしい岐阜の伏流水を原料に使っています」と金森さん。
岐阜市が位置する長良川中流域の水は、昭和60年に旧環境庁の「名水百選」と、
旧厚生省の「おいしい水」に選ばれているそう。
なるほど、おいしい水で作ったサイダーということなんですね。でも、伏流水って?
そんな質問に答えるのにうってつけの場所があるとのことで、案内してもらうことに。
行き先は、岐阜市の水道施設、鏡岩水源地でした。
鏡岩水源地は長良川の左岸、金華山の真下に位置しています。
昭和5年に上水道の取水場として造られ、現在も岐阜市の中心部へ水道水を供給しています。
伏流水とは、川の水が川底に浸透して水脈を作る浅い地下水で、
地中で自然のろ過が行われるため水質が良好。
表層水(河川の流水)を水道水として使用する場合、
法律で定められた浄化処理が必要ですが、浅井戸でくみ上げる長良川の伏流水は、
その処理が最小限で済むほど上質なのだそう。
長良川サイダーに使う水は、鏡岩水源地から上水を分けてもらい、
トラックのタンクに積んで製造工場へ運んでいます。
「最初、岐阜市の水道事業部には断られたんですよ。
でもどうしてもここの水で直接作りたい!と思っていたので、あきらめず何度もお願いしたんです」。
何度も交渉するうちに熱意が通じ、特別に使用が認められました。
金森さんは金華山の麓の古くからの町、岐阜市白木町に生まれ育ちました。
本業はプラスチックフィルムなど包装用資材を扱う仕事で、
サイダーなど食品の加工販売は初めての経験。
契機はここ数年、周囲でまちおこしイベントなど、地域の活性化をめざす動きが盛んになったこと。
20〜40代の人たちが「自分たちの暮らす岐阜の町を元気にしたい、魅力を伝えていきたい」
という思いから、若い感性ならではの情報発信や商品開発などに取り組んでいます。
彼らの活動に触れるうちに、
「自分も何か岐阜のためになることをやってみたい」という思いが金森さんにも生まれます。
「何が出来るだろう?と考えたとき、長良川がすぐそばにある町で暮らしているけれど、
自分たちは川からもらってばかりだなあと。だから川に恩返しをしたいと思ったんです。
それも一回かぎりじゃなく、継続して活動を続けていけるよう、
お金もきちんと生み出せることでやってみようと」。
仕事柄、地元のお土産屋さんに行くことが多く、「岐阜のお土産にもなるよいもの」を作ることを決心します。
商品のテーマは「長良川の水のきれいさをそのまま表現できるもの」。
たくさんのアイデアの中からサイダーに決定し、商品化に取り組みますが、
まずは製造してくれるメーカーを探すことに苦労したそう。
金森さんが一番大切に考えたのは、サイダーの味でした。
「水の透明感そのままを感じられるものにしたかったので、
“人工的じゃなく、自然な甘味で”とメーカーさんにお願いしました。
コストはかかるけれど、グラニュー糖のみを味付けに使う、昔ながらの製法で作っています」。
容器も透明感を生かせるよう、プラスチックではなくガラス瓶を採用。
商品のイメージに合うよう、ロゴとパッケージにもこだわりました。
2012年4月に「長良川サイダー」として発売を開始すると、
約1ヶ月で当初の目標数を大幅にクリア。
現在は長良川温泉の旅館や土産物店、観光施設、サービスエリアなど
約150カ所に卸しており、初年度で10万本以上を販売しました。
売り上げの一部は、長良川上流の森を守る活動資金として使われています。
「僕らが住むのは長良川の中流域で、きれいで水量豊かな川の恩恵を受けていますが、
上流の森や山は今、深刻な状況なんです。
針葉樹の杉ばかりで山に水を貯める役割を果たしておらず、
それが川の水位の低下につながったり、水質にも影響が出てしまっている。
川と山は密接な関係があるんです。
美しい長良川をこれからも伝えていくためには、上流の山に健全な森を作っていく必要がある。
そのために森を育てる植樹活動を行っていこうと思っています」。
今年5月に開催された長良川おんぱくにおいて、長良川上流の郡上市明宝地区でコナラやクヌギ、
山桜などの苗木を植える「長良川サイダーの森を植えよう!」という植樹活動を行い、
約30名の人が参加しました。
長良川サイダーを手がけて「いろんなものを得た」と金森さんは言います。
「長良川への意識のある人と知り合うことが出来たし、
いろんな人が活動を認めて、受け入れて、協力してくれる。
川や町のためにと思って始めたことが、自分の財産にもなりました。
長良川サイダーが長良川を知るきっかけや、環境保護への意識づけになるといいなと思っています」。
現在、金森さんは長良川サイダーに続く新しい商品の開発に取り組んでいます。
最後に、活動への思いをこんなふうに話してくれました。
「長良川があって、その恵みがあって、岐阜の町と暮らしがある。
ここに住む僕らにとってベース、バックボーンは長良川なんです。
だからこれからも川から離れず、活動していきたい。
他所から来た人たちに“岐阜にはこんないいものがあるんだよ”と岐阜の恵み、
魅力を伝えていきたいですね」。
長良川、岐阜の恵みを伝えたい。長良川サイダーはそんな願いが形になった、
とても素敵な商品でした。伊奈波商會の新しい商品の登場が待ち遠しいです!
お土産に頂いた長良川サイダーをよく冷やして頂きました。しゅわしゅわほどよい炭酸とすっきりした甘さで飲みやすく、どこかなつかしい気持ちにもなるおいしいサイダーでした。そういえばサイダーって久しぶりに飲んだかも。長良川に思いを馳せながら頂くと、また格別の味わいですね。
(梅田美穂)
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2013年5月13日現在の情報になります。