ハマグリやシジミの産地として知られる三重県桑名市の赤須賀漁港で2012年11月6日(火)、
ハマグリの稚貝放流があり、地元の市立城東小学校の5年生と父兄らが参加して行われました。
ハマグリの稚貝は、赤須賀漁協の種苗生産施設で育てられたもので、
今回は約200万個が用意されました。
子どもたちと父兄は、漁業者が操る漁船に乗り込み、
揖斐川河口の長島町の地先に広がる人工干潟の周辺で稚貝をいっせいに放流。
放流後には、漁港で焼きハマグリやシジミ汁が漁業者らによってふるまわれ、
子供たちは熱々の貝をほうばり、地元の自然がもたらす豊かな恵みを味わいました。
この日は朝から小雨がぱらつくあいにくの天気でしたが、
午後になると晴れ間も見え、吹きつける風も止んで放流には絶好の日和に。
お昼過ぎに赤須賀漁港に着くと、すでに放流するハマグリの稚貝が用意され、
漁協青壮年研究会メンバーの漁業者らが慌しく準備に追われていました。
200万個の稚貝は、今年6月末に産卵したものを
漁協で種苗生産を担当する諸戸敦さんが見守り続け大切に育てたもの。
諸戸さんによると、今年は夏場に高温が続いたことから、貝は順調に成育したそう。
稚貝の入った大きな桶のなかをのぞきこんで水面に顔を近づけると、
殻長が2~3ミリぐらいのハマグリの赤ちゃんがびっしり。
小さな殻を開いたり閉じたり、一つひとつがパクパクと活発に動いて、
たくさんの生命の懸命な息づかいを感じました。
漁港に小学生と父兄、教員が集まると放流イベントがスタート。
小学生を代表して女の子が「今日はいろいろ勉強したい。パーティーも楽しみ」と抱負を発表すると、
赤須賀漁協組合長の秋田清音さんが挨拶に立ち、
「貝が大きく育つのを願いたい。『大きくなったらまた会おう』と言って放流してください」と
笑顔で子どもたちに語りかけました。
稚貝を育てた諸戸さんも「みんなが大きくなって食べるハマグリは、今回放流したものかも。
よく観察して海に放流して」と呼びかけました。
漁港での説明が終わったら、漁船に乗って放流場所となる木曽三川の河口、
長島町の地先に広がる人工干潟へと向かいます。
救命胴衣を着けて、ワクワクした表情で漁師さんが待機する漁船に乗り込む子どもたち。
大漁旗を掲げた漁船が漁港からゆっくりと離れると、
多くの人々が見送る陸に向かって元気に手を振り続けました。
漁船は勢いよく揖斐川を下り、広い海を見渡すことができる伊勢湾へと繰り出します。
走りだすと強い風が吹き付ける船上はとても冷たくて、体がこごえます。
波で上下にゆれるたびにしぶきがあがり、子どもたちからは大きな歓声があがります。
そんな光景に笑みを浮かべ、慣れた動作で漁船をスムーズに操っていく漁師さん。
気がつくと10分ぐらいが過ぎ、あっという間に人工干潟周辺の放流地点に到着。いよいよ放流の場面へと移ります。
「大きくなったらまた会おう!」。
7隻の漁船が一列にならび、甲板にならんだ子どもと父兄は合図とともにバケツを傾け、
稚貝に語りかけながら次々と海へ放流していきます。
今年もたくさんの生命が多くの期待を受けて、赤須賀の漁業者が守る漁場へと放たれました。
放流を終えて漁港にもどると、漁師さんや父兄が焼きハマグリ、
シジミ汁を調理して待っていてくれました。
地元の川や海で育まれ、漁獲された貝を味わうパーティーの始まりです。
「おいしい」と目を輝かせて、焼きあがったばかりの熱々のハマグリを夢中でほうばる男の子たち。
女の子も一緒になって箸をのばし、皿のうえには空いた貝殻がどんどん積み重なっていきます。
うま味がたっぷり溶け込んだシジミ汁をすすると、
冷えた体もいつの間にか芯からポカポカと温まってきます。
焼きハマグリのおかわりをする男の子は、「まだまだ食べられる」と元気いっぱい。
「今日は楽しかった。『大きくなったら会おう』という言葉を思い出した」と、
たくさんの生命を海に帰した放流を振り返ります。
子どもと一緒に放流したお母さんも、シジミ汁を口にしながら
「海の上がこんなに大変だとは思わなかった。ちゃんと味わって食べたい」と話し、
地元の漁業や漁獲される水産物に対して理解を深めたようでした。
好天に恵まれたなかで行われたハマグリの稚貝放流。
自然がもたらす生命の豊かさ。
その生命を育み、多様な生態系の循環を支える川や海、干潟の大切さ。
そして体を張って日々貝を採り続けている漁師さんのことなど、
稚貝放流の体験を通して感じたことはたくさんあったはず。
子どもたちにとっては一つひとつの場面が消えることのない記憶として、
きっと深く刻まれたことでしょう。
放流されたたくさんの稚貝が、漁業者が保全に取り組む人工干潟のなかで
すくすくと育っていくことを期待したいです。
(新美貴資)
2012年11月6日現在の情報になります。