美濃和紙と卯建の上がる街並みで知られる岐阜県美濃市。
市街地をほぼ東西に貫く大通りの両側には、江戸情緒漂う町家が立ち並んでいる。
中でも相生町にある「小坂酒造場」は、
屋根全体が起り(むくり)と呼ばれる上方風の緩やかな弧を描いた凸形になっており、
両側と中央(表側の棟際)には三本の卯建が上がっている。
安永年間(1772年~1781年)初期に建てられたとされ、
明治以降、何度も改築を行い、近年建物の不同沈下による傾斜が著しくなったため、
昭和57、58年に半解体修理され、往時の姿を取り戻した。
昭和54年には国の重要文化財の指定を受けた。
小坂酒造場は清酒「百春」「さんやほう」の蔵元として名高く、
現在も建物は住宅兼店舗として利用されている。
入り口ののれんに書かれている「百春」の書体は、日本画家として著名な川端龍子の揮毫による。
「百春」とは「酒を楽しみながら百年の春を迎えることができますように」
との願いを込めて名付けられた縁起の良い名前で、
龍子は「百春」の名が大変気に入り、「小坂酒造場」にその書を贈ったという。
「小坂酒造場」の入り口から中庭に続く土間には、
荷車用のわだちがレンガで補強された跡が残る。
まだモータリゼーションが発達していなかった時代、
蔵で醸された新酒は荷車に乗せられて店頭まで運ばれ、荷馬車によって出荷されたという。
店の中はひんやりとした空気が漂い、
人の顔がようやく判別できるほどの薄暗さで、それがまた妙に心地よい。
中の間には帳場格子があり、
洋風のシックな応接セットやアンティークな掛け時計などが置かれていて、
蔵元としてたどってきた歴史を感じさせる。
中の間を見下ろす位置にあるのは明治初年に改造された「みはりの間」。
主人がここから奉公人たちの働きぶりを監視したのだという。
小坂と書かれた家紋の入ったのれんをくぐってさらに奥へと進むと、
右手には昔懐かしいおくどさん(かまど)があり、左手には大きな土蔵が見えてくる。
外側には酒造りの様子が模型で展示されていた。
さらにその奥の米蔵はギャラリーとして開放されている。酒蔵があるのはさらにこの奥である。
「小坂酒造場」は「百春」と「さんやほう」の蔵元である。
「百春」は創業時からの銘柄で、良質の酒造好適米を原材料に、
清流長良川の伏流水を仕込み水として使い、
後口のすっきりとした芳醇な香りの地酒として愛飲されている。
昨年は「県産米を用いた純米造りの酒」として、
東京の丸の内ハウスで行われた「岐阜九蔵」にも出品。好評を博している。
一方、「さんやほう」は関市在住の育種家・小関二郎さんが開発した
「みのにしき」を原料とする酒だ。
「みのにしき」は中濃の気候に適した米を作りたいと、
ハツシモとニホンマサリを交配させ、何代にもわたる人口交雑の末にようやく生まれた
戦後初の民間育成品種で、昭和62(1987)年に県の奨励品種となり、
関市を中心に作付けが行われている食米である。
平成9(1997)年、「関市二十一世紀まちづくり塾」の会員が
「無農薬栽培の地域の米で酒を造ろう」と発案し、
「小坂酒造場」に依頼。純米酒造りが始まった。
「さんやほう」という酒の名は、毎年関市倉知地区で行われている
「倉知祭り」のケンカ神輿の掛け声である「山野豊(さんやほう)」にちなんで名づけられたという。
現在は「さんやほうサポーター」代表の山下清司さんらを事務局として年間サポーターを募集。
田植え以降はいっさい農薬や化学肥料を使わず「みのにしき」を栽培しており、
10月初旬に収穫。翌年の春には低温でじっくりと吟醸仕込みを行った
特別純米酒「さんやほう」のボディのしっかりとした味わいの新酒が出来上がる。
現在、「小坂酒造場」で酒を醸すのは、以前、茨城の東魁酒造にいた南部杜氏の川村隆造さんだ。
社長の小坂良治さんが自分たちの求めている酒の味を説明して造ってもらうようになったことで、
酒の味もいっそう良くなったという。川村さんは後継者を育てることにも余念がない。
来春にはこれまで以上のすばらしい新酒ができあがっていることだろう。
取材当日はまだ仕込みが始まっていなかったため、小坂家住宅を拝見した後、蔵の裏にある事務所で取締役副社長の小坂善紀さんにお話をうかがいました。創業時の面影を残す家は、歴史と時間の流れを感じさせるしっとりとした空間でした。地元産の米を使った酒造りはまさに地産地消。「さんやほうサポーターズ」では、3月上旬に「新酒を味わう会」を 開催しています。 (松島頼子)
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施設名 | 小坂酒造場 |
住所 | 岐阜県美濃市相生町2267 |
TEL/FAX |
TEL:0575-33-0682 FAX:0575-35-1365 |
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清酒「百春」「さんやほう」蔵元の小坂酒造 |
2012年9月28日現在の情報になります。