岐阜市街から国道256号(通称高富街道)を北上すること約40分。
深い谷と森に囲まれたエメラルドグリーンの清流・板取川を眼下に眺めながら
縄文橋を渡るとすぐ左手に「ブルーベリーガーデン」の看板が見えました。
さっそく、オーナーの野村久良さんに案内していただきました。
約70r(7000平方メートル)の農園には15種類のブルーベリーの苗木が栽培されています。
中でもハイブッシュのスパルタンという品種が生で食べるには一番おいしく、実も大きいとのこと。
「どうぞ、食べてみてください」というお言葉に甘え、一粒いただきました。
皮はつるつるとしてとても手触りが良く、黒紫色の繻子(しゅす)のように輝いています。
口に含むとジュワッと甘みが広がりました。ほんのりとミントの香りがするような……
ブルーベリーの実にはどれもヘタの痕跡のようなわずかなへこみがあります。
「ブルーベリーは花が咲いた後、その根元がふくらんで実になります。
これは摘み取った花がらの痕なのです」と野村さん。
まもなくブルーベリーガーデンは開園。
8月半ばまで、たくさんの人々が完熟ブルーベリーの旨味と
洞戸の豊かな自然を満喫しに当地を訪れることでしょう。
今ではすっかり農園主の風格が身についた野村さんですが、
農家の子どもに生まれたわけでもなければ農業に携わったことすらありませんでした。
「中学時代からバレーボールをやっていて、
高校時代には実家を離れて関の町のなかで暮らしていました。
卒業と同時に大手総合エンジニアリングメーカーに就職したのですが、
同僚に誘われてスノーボーダーになろうと決意。翌朝、上司に辞表を出しました。
それから長野県にあるスキー場に行って、働きながら技を磨く毎日でした。
その後、初めての海外旅行でニュージーランドに行った際、
ワールドカップにも出場している有名選手と隣り合わせになったことが縁で群馬のスキー場に行ったんです。
それが農業や農家の人との出会いでした。
そのころにはプロのボーダーになって、シーズンオフにはヨーロッパ遠征に出かけていましたが、
農家の人たちは冬になると畑仕事ができなくなるので、スキー場に働きに来ます。
だけど、それは生活費を稼ぐためではなくておこづかい稼ぎ。
夏場の収入だけで十分暮らしていけるんです。
スキー場で儲けた分はパーッと使っちゃう。カッコイイなあと思いましたね(笑)」
そんなとき、群馬で栽培ブームだったブルーベリーを紹介されました。
「『野村んとこ、ブルーベリーあるんか? ないんだったらやるとおもしろいかもよ』って言われたんです」
その話を聞いた後、2年間逡巡したという野村さん。
ボーダーからの引退、結婚を機に帰省し、ブルーベリーの栽培を始めたのです。
「最初は道の駅とかに出して収入の足しになればいいかなと思って50本ぐらいから始めました。
そしたら、手をかけた分だけ育ってくれるのでおもしろくなっちゃって……
将来はこれで食べていけたらいいなと思うようになりましたね」
最初、ブルーベリーをやろうと思って地元のJAに相談したら、キウイフルーツを勧められたそう。
「でも、ぼくは人がやっていない分野で可能性のあるものに挑戦したかったので、
自分で群馬県の研究所に行き、図書館に通ってブルーベリー栽培だけでなく、
農業に関する一般的な知識を身につけました。
今でも暇があると図書館に行って、何かおもしろい本はないか探しに行きます」と野村さん。
その後、ブルーベリージャムを生地に練りこんだ焼きドーナツの移動販売を始め、
昨春関市小屋名のJAめぐみの農産物販売所「とれった広場関店」の隣りに
「ベイクドドーナツショップ」をオープンしました。
小麦粉や卵も県内産にこだわり、
銅鍋を使った手作りのブルーベリージャムをたっぷりとかけたドーナツは地元でも人気の商品です。
オアシスパークやイオンのお取り寄せ商品として、
また、全国の地方新聞社が厳選したお取り寄せサイト「47CLUB」でも購入することができます。
野村さんにとって目下の悩みは、
すべて手づくりのため量産ができないことと家族経営のため休みがないこと、そして獣害。
すぐそばが山なので、サルが何匹も出てくるのです。
農園全体を防鳥ネットで覆っていますが、いったん入られると被害は甚大。
「昨年は守り切りましたが、一昨年は入られて中盤で全滅しました。
サルが中に入ろうと思ってもネットが噛み切れないもんだから、怒ってキイキイいうんです。
その声が聞こえると飛んでいくという有様で気が抜けません。
サルを撃てる猟師さんがいませんし、
オニヒトデの粉末をぶら下げると獣がいやがって寄り付かないんですが、
1ヶ所だけというわけにいかないし、コストが高い。困っています」
岐阜県の中山間地に共通する問題に頭を悩ませています。
そんな野村さんが新たに挑戦してみたい果物があるといいます。それはカシス。
「農園に来られるお客さんによく『カシスのジャムはないの?』と聞かれるんです。
調べてみたらカシスはブルーベリーよりも栽培が簡単で挿し木で増え、
付加価値が高いことがわかりました。ところが、収穫時期がブルーベリーと丸かぶりで……」
今年から新たにサツマイモの植え付けも始めました。
ブルーベリーと収穫時期が重ならず、手間がかからないというのが理由だそう。
加工してスイートポテトや大学芋の製造販売に意欲を燃やしています。
また、ブルーベリーの残さを使って染織ができないかを考えているとのこと。
「捨てる部分が食べ物と違う分野で生きてくるところがおもしろい。
トマトやホウレンソウでも良い色が出るんですよ。
ノウハウがわかればぼくだけじゃなくて農家の人みんなができますから」と、野村さんは目を輝かせました。
なんといっても、常に人に先んじて新しい可能性を見出していくところがすごい! だからといって、いざ実行に移すときはとても慎重。採りたてのブルーベリーはジューシーで、とってもおいしかったです。苗木の販売も行われており、私も1本購入しました。ブルーベリーは酸性の土壌を好むそう。来年が楽しみです。
(松島頼子)
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施設名 | 株式会社 紫屋 |
住所 |
[ベイクドドーナツショップ] 岐阜県関市小屋名1436 とれった広場内 TEL:0575-28-4110 営業時間:9:00~17:00 定休日:火曜 [ブルーベリーガーデン] |