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【伊那市特集】契約米「美山錦」と中央アルプスの伏流水を使い、先祖から受け継いだ食の安全と旨い酒づくりにこだわる 「宮島酒店」
2012.06.01 更新

こくがあって飲みごたえのある純米酒

今年、創業101年目を迎えた「宮島酒店」。玄関先に下げられているのは、酒蔵のシンボル杉玉。

宮島酒店は銘酒「信濃錦」の醸造元。伊那市の市街地にあり、
店の前を天竜川の支流にあたる小沢川が流れています。
玄関先には新酒ができたことを知らせる杉玉が吊り下げられ、
店の中にはほんのりと日本酒の香りが漂っていました。
歴史を感じさせる落ち着いたたたずまいです。
社長の宮島敏さんにお話をうかがいました。
「創業は明治44(1911)年で、今年は創業101年目にあたります。
うちは分家ですが、本家が庄屋でしたので、創業時から米には強いこだわりがありました。
戦時中には軍需物資として米が供出されたこともあり、
酒造用に良い米を使うのは難しかったのですが、
祖父は税務署の通達をものともせず、良い酒造りにこだわっていたようです」
創業時は宮島家の家紋にちなんで「扇正宗」と命名していましたが、
後に信州の栄光と店の飛躍を祈念して「信濃錦」という銘柄になりました。
信州が誇る酒造好適米「美山錦」と中央アルプスの伏流水が醸し出す酒は、
「淡麗にして水の如し」とは一味違う、こくのある飲みごたえです。

落ち着いた雰囲気の店内。ほんのりと酒の香りが漂う。

「美味と安全」をモットーにした酒造り

蔵の入り口に下げられた注連縄。酒蔵は聖域だ。

酒蔵に眠る仕込みの終わった酒たち。

(左)瓶詰され出番を待つ「信濃錦」
(右)さまざまな実験器具が並ぶ、科学実験室のような「分析室」

麹室の中。平成9年に拡張され、全量箱麹に。
麹こそ“日本酒の命”であると考え、「蔵人の感性が最大限に活かされる場所だ」と宮島さんは言う。

実はこの「宮島酒店」、全国で初めて全ての製品を防腐剤無添加とし、昭和47年に特許を取得。
以来「美味と安全」をモットーに酒造りを行っています。
今では防腐剤無添加など当然の世の中ですが、
そのころは逆に使わなければ酒の保存はできないと考えられていたのです。
この思い切った酒造改革を行ったのは敏さんの父、宏一郎さんでした。
当時のことを、宏一郎さんは雑誌「宝石」(昭和44年12月号)で次のようにつづっています。
(「宮島酒店」HPの「防腐剤無添加酒の開発」より引用)

「昭和42年10月1日、私は一家五人で記念撮影をした。
漸く今までの開発経緯を女房に話し、自信はあるものの世間の風は冷たい中で、
俺の人生の賭けだと心に決め、子供達と共に正装して町の写真屋に向かった。
『殿様に成るか、乞食になるかの分かれ目だ』とそう言いながら写真に納まったのである。
昭和44年10月23日、国税庁主催の醸友会シンポジュウム(東京)で演台に立った私は
「サリチル酸無添加酒」と題して今までの研究成果を報告した。
この報告は、決して醸造業界や厚生省などの関係者達に、
諸手を上げて称賛して貰えるものではなかった。
白眼視される中での出発であったことは言うまでもない」

明治13年から日本では法律により、
酒の腐敗を防ぐため防腐剤を使うことが許可されていました。
火落ちしたものは酒として売ることができず、その割合が多くなると酒税がとれなくなり、
国家の財源確保ができなくなるおそれがあるためでした。
そこで、ドイツで作られていたサリチル酸に注目が集まり、
酒の防腐剤として使用するようになったのですが、毒性が強く、
慢性的に酒と一緒に飲み続けると五臓六腑に障害を起こすという恐ろしいものでした。
「宮島酒店」では極めて厳重な衛生管理の下、
試行錯誤しながら酒を腐敗させる火落ち菌と闘ってこれを克服。
昭和42年10月1日、日本で初めてサリチル酸を使わない日本酒を発売したのです。
「安全で旨い酒を造る」という宏一郎さんの理念は、敏さんにしっかりと受け継がれています。

減農薬・無農薬の契約米で顔の見える酒造りを

(左から)「れとろらべる 純米吟醸」(減農薬栽培 「美山錦」全量使用)
「命まるごと」(吉川照美さん栽培 無農薬栽培 「美山錦」全量使用)
「一瓢(いっぴょう)」(減農薬栽培 「美山錦」全量使用)

「食の安全」というけれど、その原材料に農薬が使われていては安心とは言えません。
「宮島酒店」では、すべての原料米を生産者の顔が見える契約米にしたいと考え、
徐々に減農薬米、無農薬米を生産している農家との契約件数を増やしてきました。
今では農業法人加入者も含め、20軒ほどの農家と取り引きがあります。
「最初は無農薬米を作っている同級生やうちの蔵人のご主人など身近な方々と契約を結び、
そのうち農協さんからもあちこちで頑張っていらっしゃる農家さんを
ご紹介いただけるようになりました。
特に地産地消にこだわっていたわけではないのですが、
顔が見える米というと自然にそうなりますね。
農家さんも一生懸命作っているのだけれど、売り先に困っている。
今から20年前といえばそれほど食に対する安全意識も強くなく、
インターネットも一般的ではありませんでしたので、
個々の消費者に対してどうアプローチしたらいいかわからないという方がほとんどでした。
うちのような小さな蔵でも
ある程度まとまった量を引き取ることができれば農家さんの助けにもなりますし、
うちにとっても目の届く範囲で契約できるのでありがたいですね。
最近はそういう方々が各地で農業法人を立ち上げて、
無農薬、減農薬で栽培する技術を伝承していく仕組みができてきました。
平成18年からは全量を醸造アルコールを添加しない純米仕込みに。
今後は麹の力を生かして米の旨味を引き出すことを心がけながら、
食事と一緒に楽しんでいただける酒造りを心がけていきたいですね」と、
敏さんは語ってくれました。

社長の宮島敏さん。父の宏一郎さんが全国で初めて全ての製品から防腐剤を駆逐。
食の安全に留意し、より旨い酒を造ろうとする姿勢を受け継ぎ、日々模索中。

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当時の日本酒業界では当たり前だった防腐剤の危険性にいちはやく着目し、大変な努力の末に防腐剤を入れない酒を発明したという先代の姿勢に感銘を受けると同時に、現当主の敏さんもおとうさまの姿勢と酒造りの理念をしっかりと受け継いでおられるすばらしい酒蔵です。酒造りは米作りから。米の栽培から酒造りまで一貫した姿勢を貫くことで、農業にも新たな方向性が見えてくるように思います。

(松島頼子)

施設情報

施設名 合資会社 宮島酒店
住所 長野県伊那市荒井3629-1
TEL/FAX TEL:0265-78-3008
E-mail sakeza@miyajima.net
URL 信州の酒 『信濃錦』/ 蔵元情報

2012年4月26日現在の情報になります。

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