今期(2012年)は3月8日(木)に解禁となった、
愛知・三重の両県で行われる伊勢・三河湾でのコウナゴ(イカナゴ)漁。
春の訪れを告げる魚を見ようと、愛知県南知多町の師崎漁港を訪れました。
師崎は、長くのびた知多半島のもっとも先にある漁師町。
頭上には晴れ渡る青い空がひろがり、陽が高くのぼり始めると、
肌寒かった空気にも温もりが伝わってきます。
1年をめぐり、再びやってきたこのとき。
前日からそわそわしてなんだか落ち着かない、はやる気持ちをおさえて、
水揚げされたばかりのコウナゴを見ようと、漁港へ急ぎました。
午前10時をすぎたころ漁港に到着。
荷さばき場の一角は、体長3、4センチほどの、コウナゴがどっさり入ったかごの山が占め、
多くの男女が忙しく動きまわり働いていました。
すでに入札は始まっていて、
取引に参加する仲買人らが積み上げられたコウナゴのカゴを囲み、
真剣な表情でサイズや色合いなどを吟味しています。
コウナゴは、2隻の漁船で網をひく「船びき網」という漁法で漁獲されます。
漁場からは、魚を満載した運搬船が次々にもどって水揚げ。
運搬船からベルトコンベヤーで絶え間なく流れてくるかごを、
待ち構える浜の女性たちが受け取り、協力して荷さばき場のなかへ積んでいきます。
漁港内は、水揚げを待つ船で渋滞気味。
荷をおろすとすぐに船首をかえし、再び漁場へと急行します。
落札されたコウナゴは、そばで待機するトラックに急いで運びこまれ、加工場に移されます。
鮮度の落ちるのが早いこの魚。水揚げからは時間との勝負が続きます。
人々のしゃべる声がひびきわたる荷さばき場はとてもにぎやか。
朝の8時すぎから始まったという水揚げの作業に「忙しくなってくれないと」。
そう語る浜のお母さんは、次々と運ばれてくるコウナゴを前に、期待をこめた笑みをうかべます。
漁港にいた加工業者の方にうかがうと、コウナゴは小さくて、サイズのそろったものが良いそう。
乾きが早く、製品の仕上がりにばらつきがでないのだとか。
脂がのりすぎているのも、加工した後の味の劣化が進みやすいため、あまり向きません。
漁獲されるコウナゴの色合いも、青味があったり赤味があったりといろいろ。
摂っているエサや漁場、時間帯などによって異なるというから、その複雑さには驚いてしまいます。
「つくだ煮や釜揚げ、干して食べるのが普通。野菜と一緒にかき揚げにするのもおすすめ」と、
うまい食べ方を、忙しい作業の合間に年輩の女性が教えてくれました。
獲れたコウナゴは、周辺の加工場で釜揚げや干したちりめん、つくだ煮にされ、出荷されます。
漁港を後にし、漁師町のなかをぶらぶら歩いていると、どこからかたまりの濃厚な香りが。
そのあともあちこちから漂ってくる、コウナゴを炊きあげるにおいに誘われ、
漁港の周辺をしばらく歩き続けました。
以前にもうかがった、地元で干物やちりめんを製造・販売する「マル伊商店」をおとずれ、
天日に干す作業を見せてもらうことに。
干し場では、今朝獲れたばかりの、うま味をぎゅっと凝縮したような
風味ゆたかなコウナゴが一面にひろがり、かぐわしい潮の香りを放っていました。
この日は、浜のいたるところでこうした光景を目にしました。
春の訪れを海からの恵みで実感する。
浜にわきあがる活気を五感で満喫することができた、とても贅沢な一日でした。
※愛知・三重の両県で操業される、今期の食用加工向けのコウナゴ漁は3月30日の出漁をもって終了しました。
(新美貴資)
2012年3月8日現在の情報になります。