昨年(2011年)秋に渡り、
その魅力にはまってしまった鳥羽の答志島を2月上旬に再び訪ねました。
今回は島の答志地区で催される「答志八幡祭」を見るのが目的。
3日間にわたり大漁を祈願する伝統の祭りで、
島の人からぜひ見にいらっしゃいと言われ、ずっと気になっていたのです。
鳥羽駅から市営の定期船に乗ってそのまま答志漁港に向かおうとしたのですが、
直行便は出ていってしまったあと。
島の東端にある答志とは反対なのですが、
西側の桃取漁港に向かう船がちょうど出港しようとしていたので、
あわてて飛び乗り、まずは島へ渡ることにしました。
海風が容赦なくふきつける島の漁港は、いまも寒さが厳しい。
青空がひろがる好天の下でも、手はすぐにかじかんで痛みだします。
前回もお世話になった海女の濱口ちづるさんに案内してもらい、
桃取から答志へ東西に長くのびた島のなかを車でのんびりと横断。
途中の和具地区では、養殖ワカメの収穫が始まったばかりというので、
浜をながめ歩いてみることに。
穏やかな海が広がる和具は、島のなかでもワカメの養殖が盛んなところ。
漁港では、獲れたばかりの潮をたっぷりと含んだつやつやしたワカメがどっさりとつまれ、
その傍らに浜の人々が腰をおろし、
もくもくと仕分けの作業を続ける光景がずっと先のほうまで続いていました。
この日の浜はワカメ一色でどこも大忙し。
素早い手つきで次々にメカブ、葉と茎をより分けていく老若男女。
海からは、すぐ地先の養殖場からたくさんのワカメをつんだ漁船がもどり水揚げ。
浜にならぶ熱湯であふれた大きな釜からは、もうもうと湯気がはきだされ、
そのなかにワカメがどさっと放り込まれていきます。
湯にとうされたワカメは、褐色から鮮やかな緑色へと変身。
近くの加工場で塩蔵されたものが、特産の塩ワカメとなります。
前日から収穫が本格化し、これから伸びてくるというワカメ。
もっと育つと茎や葉も肉厚で幅広になるそうです。
若い漁師が差し出してくれたメカブを一口かじってみる。
粘りのある糸が口からのびて、磯の香りがぱっと広がります。
お次は茎。ぽりぽりとかじると、肉厚な弾力で独特の歯ごたえを感じます。
「茎は細いほうが若いからおいしい。シャキシャキでパリンパリンだよ」。
作業を続ける浜のお母さんが、
千切りにし湯がいてポン酢につけてと、茎の食べ方を教えてくれました。
作業をじっとながめていると、
笑顔を浮かべたおばあちゃんがやってみなと声をかけてくれたので、
仕分けをちょっと体験させてもらいました。
小刀の背の部分を使い茎にそって滑らせ、
ひだが連なるメカブの部分をこそぎ落としていくのですが、
初めのうちは力の入れ具合がよくわからず、ちょっととまどい気味。
それでもすーっと小刀を走らせていくと、メカブがぽろぽろと気持ちよく落ちていきます。
おいしい食べ方を聞くと、熱湯にとおして水を切り、
味噌と酢をあわせたタレにつけて食べるのがうまいとのこと。
甘党の人はタレに砂糖も加えるそうです。
そんな答志島でのワカメの収穫は4月頃まで続きます。
漁港のわきには、カットしたメカブを干してつくる乾燥メカブ、
地元では乾燥めひびとも言うようですが、その干し場もありました。
プルプルとしたメカブは、天日に干すと1日で乾いてパキンパキンの真っ黒に。
一ついただいてかじってみると、思わず顔をしかめてしまうほどのしょっぱさ。
うま味もたっぷりと凝縮されているはずで、
小さく切っておつゆや味噌汁に入れて食べる、なんていう話を聞くと、
まだお昼前なのにお腹が減ってしまいます。
午後からは、八幡祭でもっとも盛り上がるという弓引神事を見ようと、答志地区の会場へ。
設けられた舞台では、きらびやかな着物を身にまとった子供たちや
女性らによる華やかな演芸が始まり、
つめかけた多くの島民の熱気で祭りの雰囲気が徐々に高まってきます。
弓引神事の刻限が近づくと、
若者が口々にさけぶ掛け声もさらに熱を帯び、人々の興奮は最高潮に。
若者たちが「お的」と呼ばれる、木組みの紙をはり墨をぬったものを
かついで坂をかけのぼってくるのは一瞬のことでした。
待ちかまえる人々が「お的」にわっと押し寄せ、墨紙を奪いあいます。
人々はこの墨紙で家の戸口に「丸に八の字」を書き、大漁と家内安全を祈願するのだそうです。
島をあるいていると、いたるところでこの「丸に八」を目にします。
群集にもまれるなか、あっという間に終わってしまった弓引神事。
それでもたまたま隣に居合わせた老漁師の方が、祭りのことはもちろん、
昔の漁のことなどをずっと語り聞かせてくれたうえ、
祭りの最中にはよく見える所へ案内もしてくれたので、
その後に舞台で行われた獅子舞もしっかりと目に焼き付けることができました。
新たな出会いにあふれる島めぐり。
今回も自然にうちからこみあげてくる「ありがとう」がたくさんありました。
気がつけば昼食をとるのも忘れて、ひたすら島のなかを歩き見て聞いた一日。
次に訪れるのはいつになるのか。いまからとても楽しみでなりません。
和具の漁港で味わった乾燥メカブのしょっぱさを思い出し、
出会った一人ひとりの笑顔を振り返りながら、夕暮れの答志島を後にしました。
(新美貴資)
2012年2月11日現在の情報になります。