いま伊勢湾でたくさんとれているのがこのエビ。
白っぽい体の色と長いヒゲのような触角が特徴のシバエビです。
この日歩いたのは三重県四日市市の富田漁港。
伊勢湾と接する海岸は、立ち入ることのできない工業地帯が、
見渡す限りずっと遠くまで広がっています。
埋め立てられた港の後背は、工場や倉庫、貨物などの人工物でうめつくされていました。
はるか先には、何本もの巨大な煙突が青空へと突き出し、
白煙をもくもくと吐き出しています。
そんななかにあって、この漁港の周辺だけは漁師町の雰囲気をいまも残していました。
漁港を埋めている船のほとんどは小型のプレジャーボート。
魚をとる船はわずかしかありませんが、それでも現役の漁船が数隻、
出番を待つかのようにどっしりと停泊しています。
猫たちが眠たそうな顔でたたずむなか、伊勢湾へと繰り出していた一隻の漁船が帰港します。
長時間の漁を終えて、満足そうな表情を浮かべる老漁師。
底びき網漁でとったというこの日の収穫は、シバエビをはじめ、
地元ではガンサと呼んでいるヨシエビ、サルエビ(アカシャ)、
ガザミ(ワタリガニ)、シャコ、マハゼ、アカハゼ、マゴチなど。
ちょうどいまはシバエビがたくさん獲れているそうで、
10センチほどの身のぷりぷりとしたエビがたくさん。
浜にいた地元の年輩女性に聞くと、頭をとって天ぷらや唐揚げにしたり、
ゆでてキュウリとあえ、サラダにしてもうまいのだとか。
かつてはこの漁港から大勢の漁師が伊勢湾へと船をだし、
たくさんの魚をとって帰ってきたという話も聞きました。
目の前に広がる自然の香りの消えた光景からは想像もつかないのですが、
埋め立てる前は遠浅の砂浜で泳ぐことができ、
たくさんのアサリやハマグリ、シジミがとれ、ノリ養殖も盛んだったそうです。
漁港の周辺には、とれたシラスやコウナゴの加工場がずらっとならんでいたというから、
伊勢湾の恵みを受けて浜は大いににぎわっていたのでしょう。
そんな面影をわずかに残すこの漁港では、
いまも船をあやつり伊勢湾で漁を続ける人々がいます。
(新美貴資)
2012年1月28日現在の情報になります。