冬から春先にかけておいしいのがカキです。
この時期は栄養をたっぷり蓄えていることから、味も良くて身もぷりぷり。グリコーゲンやタウリン、
カルシウムなど多くの栄養成分を含んでいて、「海のミルク」とも呼ばれています。
煮たり焼いたり揚げたり、生食用はそのままでも。いろいろな食べ方で味わうことができる人気の貝類です。
養殖カキの産地として、全国でも有名なのは広島、宮城県ですが、この伊勢湾でも
たくさん生産されていることを知っていましたか?
湾に面した三重県鳥羽、志摩市などの産地では、10月頃から始まったカキの出荷が最盛期を迎えています。
なかでも鳥羽市の浦村町は、県内でもっとも養殖が盛んなところ。ここでとれたものは「浦村カキ」として、
東京や大阪、名古屋などに出荷されています。生産者がカキ小屋で提供する焼きガキの食べ放題も人気で、
シーズン中は多くの客が訪れます。そんな養殖の現場を見ようと、浦村をたずねてみました。
浦村へ向かったのは、寒さの厳しい1月下旬。JR・近鉄鳥羽駅から、バスにゆられること約40分。
のぼりくだりの激しいまがりくねった海沿いの道を進むと、人口約1000人の漁師町が見えてきます。
晴れ渡る空の下には、伊勢湾へとつながる麻生浦(おおのうら)湾が広がって、
たくさんのカキ養殖のイカダが浮かんでいました。
浦村で養殖されているカキは、日本でとれるもっとも代表的な種類のマガキです。
イカダからロープでカキを海中に吊るす、「垂下式」と呼ばれる方法で育てられています。
麻生浦湾では82の業者が養殖を営み、1250基のイカダが浮かんでいます。
カキの稚貝である「種ガキ」を仕入れるのは毎年10月。「種ガキ」はホタテの貝殻にびっしりとついており、
その貝殻に穴をあけてロープを通し海中に吊るします。そして1年間海のなかで育てられ、
たっぷりと身のついた翌年に収穫されます。
浦村の漁港に到着したのは午後3時すぎ。
この日うかがったのは、浜田英夫さんと息子の章吾さんが経営する浜英水産です。
英夫さんはカキ養殖を営んで30年以上になるベテランで、章吾さんも漁師歴は10年以上。
夕方に章吾さんがカキを収穫しに行くというので、さっそく現場を見せてもらいました。
加工場のすぐ前に係留されていた小型の漁船に乗って、章吾さんと湾内にあるイカダへ。
5分ほどで到着すると、章吾さんはすぐにイカダに飛び移り、
カキを吊るしている長さ約7メートルのロープを手でたぐりよせて、漁船のほうへと引っ張ります。
船に積んでいるウインチにロープを取り付けて巻き上げると、海中からカキが勢いよく姿をあらわします。
いくつもが密着した黒い大きなかたまりを、貝割り機に通してばらしていきます。
しぶきをあちこちに飛ばし、ガラガラと音をたてながら、たくさんのカキがカゴを埋めていきます。
びっしりとカキがついたロープの重さは、海中でも30キロぐらい。ロープ1本からとれるカキは、
100キロを超えるそうです。章吾さんが引っ張っているロープを持たせてもらいましたが、
あまりの重さに耐えきれず、すぐに代わってもらいました。
こうした重労働の連続で、多くの養殖業者が腰を痛めてしまうそうです。
この日にあげたロープは10本で、収穫したカキは1トンを超えました。
現場での作業は40分ほどで終わりましたが、体はすっかり冷え切ってしまい、陸にあがってからも
震えがしばらく止まりませんでした。
収穫して加工場へと運んだカキは、手作業で一つずつにばらして不良なものをとりのぞき、
付着物や汚れを落としていきます。その後はネットに分けて入れ、再び海にもどして1ヶ月ほど畜養します。
低い密度の環境でしばらく育てると、身の入りがさらに良くなるそうです。
さらに生食用のカキは畜養した後で、殺菌海水が流れる水槽に活かしたまま一定時間いれて浄化します。
収穫されたカキは、人の手による様々な作業をへて、むき身や殻付きの商品として出荷されています。
「実際は手間がかかって、すごく大変なんですよ」と話す章吾さん。
イカダや加工場での作業を見て、カキ養殖が体を酷使する厳しい仕事で、
出荷までには多くの労力と時間がかかることを知りました。
浜英水産では、加工場の横にある店で焼きガキなどの料理も提供しています。
3月末までの出荷シーズン中は、カキの収穫から加工だけでなく、料理の仕込みや店での接客など、
早朝から夜遅くまで家族で作業に追われる忙しい日が続きます。
この季節、焼きガキの食べ放題が楽しめる浦村町は鳥羽の人気スポットです。
町内には養殖業者らが経営するカキ小屋が22軒あり、旬の海の味覚を求めて県内外から多くの客が訪れます。
浜英水産で提供する焼きガキ食べ放題のメニュー(大人1人2500円)には、焼きガキのほかにも、
カキのご飯、味噌汁、フライ、グラタンなどがつきます。店にくる客のほとんどはリピーター。
東海、関西方面からが多く、予約は1ヶ月先まで埋まっているそうです。
網のうえで焼かれたカキは、殻が真っ黒でアツアツ。軍手をつけて専用ナイフでザクッと殻を開けると、
汁気たっぷりのプリッとした身があらわれます。たまらず口に入れると、
甘みと潮のしょっぱさが広がって、さらに食欲がわいてきます。
そんな浦村のカキですが、昨年10月にこの地方をおそった台風18号によって、
かつてないほどの大きな被害を受けました。イカダの多くが流されて、たくさんのカキを失ってしまったのです。
鳥羽磯部漁協浦村支所によると、今シーズンのこれまでの生産量は例年の6割ぐらいで推移しているとのこと。
「こんな経験したことがない。もう再起は無理だと思った」。
長年にわたって浦村の海を見続けてきた英夫さんが、その時の悲惨な状況を振り返ります。
それでも養殖業者は団結して壊れたイカダを回収。1ヶ月にもわたる復旧作業で、
なんとか収穫シーズンを迎えることができたのです。
浦村の養殖業者からは、伊勢湾に注ぐ木曽、長良、揖斐川の木曽三川がとても大切だとの話を聞きます。
これらの川によって運ばれてきた山からの栄養分が、伊勢湾をとおって浦村の海にまで流れ込み、
カキの餌となるプランクトンを育てているそうです。その豊富なプランクトンをたくさん食べて、
小さな「種ガキ」から身のたっぷりついたカキへと1年で成長するのです。
一つにつながっている森、川、海。
その豊かな自然の恵みと生産者の日々の努力によって育てられた「浦村カキ」。
いろんな食べ方でおいしく味わうことができますが、とれたてはそのまま焼いて食べるのが一番!
食べだしたらとまらない。そんな浦村の焼きガキをぜひ味わってみてください。
(新美貴資)
店名 | 浜英水産 |
住所 | 三重県鳥羽市浦村町1212-6 |
アクセス | JR・近鉄鳥羽駅からパールロード方面へ車で15分。 同駅から「石鏡港」または「志摩スペイン村」行きのバスに乗って「今浦」で下車し、 徒歩15分。 |
TEL/FAX | 0599-32-5932 |
営業時間 | 食べ放題は11:00~16:00まで。
事前の予約が必要です。
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定休日 | シーズン中(11月から翌3月末ぐらいまで)は無休。年末年始は休み。 臨時休業もあるため、営業日はお店に直接お問い合わせください。 |
座席数 | 45席(屋内・屋外あわせて) |
2010年2月25日現在の情報になります。