「株式会社ムジカ」の本社は、大垣市から三重県桑名市に至る
国道258号(通称・大桑国道)沿いに建つ小さなビルの中にあります。
社長は真壁征生(まかべ・いくお)さん。
父が設立したオーディオのための電源システムを開発する
「株式会社CSE」で20年近く働き、機器の設計を担当。
2005年に「株式会社ムジカ」として独立しました。
今では小規模ながら、世界30ヵ国で商品を販売するオーディオメーカーに成長したのです。
「『ムジカ(MUSICA)」』とは、ラテン語で『音楽』の意味。
「世界に通用する製品を開発し、販売していきたい」という真壁さんの強い思いが込められています。
最新鋭のパソコンオーディオからアナログディスク専用アンプまで、
高品質で信頼度の高い音響機器を製造する「ムジカ」には、
大規模メーカーとは異なる独特のコンセプトがあります。
その一つは、製品の多くがバージョンアップ可能な設計になっていること。
近年、エレクトロニクス技術の進歩は目覚ましく、
せっかく購入しても数年先にはアフタフォーローもなくなり、
買い替えなければならないという状況が当たり前になっていますが、
「ムジカ」の場合は現在使用している製品を廃棄することなく、
その部分をバージョンアップすることで最新機器として、
できるだけ長く音楽を楽しむことができるようになっています。
また、従来音響機器には不向きとして敬遠されてきたICの中から高品質のものを探し出し、
真空管を最新の増幅素子と組み合わせることで新たなパワーアンプを開発。
日本ではすでに前時代の遺物となっている真空管を、
オーディオアンプ用として甦らせることに成功しました。
2007年の会社設立以来、「ムジカ」では、
アンプを中心とする様々な音響機器を製造してきました。
パーツの約80%は岐阜県で製造。
組み立てに至っては100%岐阜県で行っているのも大きな特徴の一つです。
「一般にはあまり知られていないかもしれませんが、西美濃エリアは全国でも有数の工業製品製造地帯。
この分野で西美濃に匹敵する所といえば、東大阪ぐらいなものでしょう。
しかも、一流自動車メーカーにパーツを供給している企業や飛行機の部品を作っている企業など、
日本のものづくりを底辺で支えている堅実で高い技術を持った企業や小規模事業所が多いのです。
たとえばうちでは金メッキを仏壇屋さんにお願いしていますが、
分厚くて立派なメッキをつけていただけますし、スピーカーの下に入れる木のブロックは、
養老の指物屋さんで加工してもらっています。
そうすることで、より良い音が出せるようになるのです。
地元の会社に仕事をお願いすることで、
西美濃にお金の流れをつくることも私の大切な役割の一つだと思っています」と、
真壁さんは言います。
2010年12月に発売された「いぶき」シリーズ
(プリメインアンプ・フォノアンプ・USB-DAC)は、関ケ原町と共同開発されたもの。
シリーズの名前は西美濃の北西部にそびえる伊吹山にちなみ、
「西美濃から世界にはばたく」ことを願って名づけられました。
「いぶき」のフロントパネルに使用されているのは、関ケ原町特産の今須杉。
かつて今須地区は林業が盛んで、特に杉は高値で取り引きされていましたが、
今では木材市場に出回ることもなく、ほとんど幻の杉となっています。
「いぶき」に使われている今須杉は樹齢150年以上経ったもの。
伐採した原木を山で1年以上寝かせ、15cm角に製材して3年以上自然乾燥。
フロントパネルの寸法に合わせて削り、さらに数カ月乾燥させるという大変手の込んだものです。
また、「いぶき」に付属している天然の御影石のボードは、
「関ケ原マーブルクラフト社」で製造されたもの。
この道40年の職人によって磨き上げられました。
蒔絵を思わせる漆黒の天板には、
関ケ原町にある県指定の天然記念物「八房の梅」にちなんだ梅の花が金で描かれるなど、
和室にもぴったりの格調高いオーディオ機器として、
ヨーロッパに輸出しているムジカ製品の中では一番の人気だそうです。
多忙を極める真壁さんには、いくつかの顔があります。
その一つが岐阜FMで自らパーソナリティを務める「ムジカレコード店」。
2008年9月4日に始まり、今年で5年目になりました。
毎週月曜の午後6時半から始まる「イブニング・トリッパ―」の中で放送されているこの番組の中で、
真壁さんはアナログレコードをかけながら、オーディオや音楽の話をしています。
時には同じ曲をCDとレコードで聴き比べたり、
1930年代に録音された曲をかけてみたりとかなりマニアックですが、
そこには真壁さんならではのこだわりがあるのです。
「テレビも地デジ化され、いまやアナログ放送はラジオだけ。
しかし、そのアナログ放送が見直されつつあります。
実は、あの東日本大震災の折、被災地で活躍したのはラジオでした。
『雑音が多くてもいい、とにかく何か聴くことができれば』と、被災地の方から求められたのです。
普段使いの便利さを追求したのがデジタルならば、
アナログは三ツ星レストランのディナーを食べる高級感とでも言いましょうか……
デジタルの究極の目標はアナログです」と真壁さん。
この7月には大垣市上石津町の寺でレコードコンサートを開催。
プリメインアンプは小型ながら「ムジカ」の最高級機種「雷鳥」、
スピーカーはドイツ製の「クアドラル」という大変ぜいたくなもの。
岐阜県の県鳥である「雷鳥」の名を冠したアンプの天板とオーディオボードにも
「関ケ原マーブルクラフト」の黒御影石が使用され、1台1台手づくりされています。
約30人の観客はレコード独特の柔らかな力強い音に耳を傾けながら、
青春時代に思いを馳せていました。
10月19日には大垣市のソフトピアジャパンでお月見コンサートを開催。
また、「乗って残そう揖斐養老線実行委員会」の会長でもある真壁さんは、
「クラシックを遊ぶ音楽実験室」をテーマに全国各地で楽しいコンサートを展開している異色デュオ
「杉ちゃんと鉄平」の「養老鉄道」内でのゲリラライブやコンサートなども行ってきました。
昨年の夏には住み慣れた大垣の市街地を離れ、山間部の上石津町に移住。
「緑豊かな所に引かれました。適当な古民家が見つかったら、
社屋もこちらに引っ越したいと思っています。
関ケ原町とコラボしたように、
いつか上石津の自然をテーマにしたオーディオを作ってみたいですね」と話してくれました。
「ムジカ」の機器は、HPのインターネット販売のほか、
岐阜市の「サウンド・ハンター」や名古屋市の「サウンド・ピット」、
「ノムラ無線」北名古屋市の「オタイオーディオ」などでも購入することができます。
世界を相手にしている「ムジカ」を支えているのは、地元の製造業。取材を通して、あらためてその技術水準の高さを知ることができました。地元でパーツを製造して、地元で組み立てることにより、ランニングコストを抑えることができ、これぞ、企業にとって究極の地産事業だと思います。デジタル全盛の世の中ですが、レコードから醸し出される音を聴き、その豊かさ、力強さにとても魅力を感じました。ぜひ、読者の皆さんにも、CDとレコードから流れる音の違いを聴き比べていただければと思います。また、「ムジカ」のブログは真壁さんがほぼ毎日のように更新。外国人のアクセスも多いため、英語バージョンでも書かれています。
(松島頼子)
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問い合わせ | 株式会社ムジカ 岐阜県大垣市浅草2丁目102番地 TEL:0584-89-9920 FAX:0584-89-5696 |
URL | 株式会社ムジカ MUSICA 公式サイト |
納期等のお問い合わせ | eigyou@musika.jp |
技術的なお問い合わせ | gizyutu@musika.jp |
2013年6月3日現在の情報になります。