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里山整備研修 ~ナラ枯れ枯損木による薪の生産~「岐阜県立森林文化アカデミー」
2013.02.04 更新

ナラ枯れを通して森と人との関わりについて考える

今回の研修の参加者たち。アカデミーの学生や林業関係者、木育、里山を生かす活動に携わる人々など

 先日、岐阜県美濃市にある「岐阜県立森林文化アカデミー」で、
「里山整備研修」の一環として「ナラ枯れ枯損木による薪生産」が開講された。
近年、日本の山林は、コナラやミズナラ、カシ、シイなど
ブナ科の木々が集団で枯れる「ナラ枯れ」と呼ばれる被害が急増している。

山に入ると秋の紅葉時期でもないのに
木々の葉が異様に茶色くなっているのを見たことはないだろうか。
私が住んでいる上石津も例外ではない。
以前から地元の林業関係者の方からナラ枯れについての話を聞いていたので、
今回の研修はとても興味があった。
ブナ科の木々は日本の里山を代表する広葉樹であり、
里山が薪炭林として利用されていた時代だったら、
ナラ枯れは社会的に大問題になっていただろう。
しかし、燃料革命以後、里山は人々の生活とはなはだ縁遠いものになってしまった。
そのため、林業関係者の間では問題視されているが、
ナラ枯れが一般の人々の話題にのぼることは極めてまれである。

今回の研修では、最初に柳沢直准教授から里山の定義と現状についての話があり、
里山と人や動植物とのかかわりを通して
「人が里山を顧みなくなったことでその自然が変質してきている」という問題提起がなされた。
しかし、「今の社会に合った新しい仕組みを考えることで、
再び昔のように里山の自然を人が使うことができるようになるかもしれない」とのことであった。
その一つが薪ストーブの燃料としての薪である。

研修を共催で実施した「ぎふ森林づくりサポートセンター」。
「岐阜県立森林文化アカデミー」の敷地内にある

(左)里山の現状と課題を説明する柳沢直准教授
(右)カシノナガキクイムシの説明をする「森林研究所」の大橋主任専門研究員

(左)講義に聴き入る参加者たち
(右)参加者の一人、水崎貴久彦さん。養老公園の管理をされている

ナラ枯れを媒介するカシノナガキクイムシ

 ナラ枯れの原因になっているのは
カシノナガキクイムシ(以下カシナガと省略)という在来種の昆虫である。
「森林研究所」の大橋主任専門研究員によれば、
毎年6、7月になるとカシナガのオスが新しい木に入り込み、集合フェロモンを出してメスを呼び込む。
その際、集中穿孔して内部に産卵するのだが、
カシナガと共生しているラファエレア菌もともに繁殖するため、
木に通水障害が起こり、わずか2カ月足らずで枯れてしまう。
通水障害は木の菌に対する防御反応の結果なのだという。

ナラの木に巣くうカシノナガキクイムシの幼虫

 ナラ枯れの被害がこんなに拡大した原因はどこにあるのか。
それは「ナラが大きくなりすぎたためだろう」と、大橋さんは言う。
江戸時代にもナラ枯れは発生した。
しかし、当時の里山は人間の暮らしにとってかけがえのない燃料を生む宝の山であり、
しょっちゅう人々は山に入って木を伐っていた。
つまり、生活しながら防除ができていたため、被害の拡大を免れていたのである。
 しかし、今は山主であっても山に入ることはめったにない。
おかげで里山のナラ林は放置され、
カシナガにとってはたいそう居心地の良い林になってしまったのである。
 枯れた1本の木には約2万匹のカシナガが巣くっているという。
ナラ枯れになると葉は紅葉時のように茶色になるが、落葉しない。
しかも、幹は枯れ、すぐに腐ってしまう。
この日、受講生として聴講されていた養老公園の管理者である水崎貴久彦さんによると、
「ナラ枯れした木は強度がないため、枝打ちも除伐もできず、大変危険。
早めに対策しないと本当に危ない」とのことだった。

 講義の後、外に出て輪切りにされたナラの木の中に巣くうカシナガの幼虫を見た。
想像していたよりもかなり小さい。
 ナラ枯れを防ぐには薪として利用することが有効なのだという。
カシナガが活動をしていない冬場に伐採して薪にすることで、
中にひそむ幼虫は外に出て死滅する。
ナラ枯れした木を薪として利用しても、特に支障はないという。

薪ストーブユーザーの立場に立った取り組み

「ファイヤーライフ岐阜」各務原市各務山の前町2丁目013番地
(ホームページはこちら→http://coto2.jp/

薪ストーブについての説明を聞く

 午後はアカデミーのバスに乗って、各務原市にある「ファイヤーライフ岐阜」へ移動。
あかあかと燃える薪ストーブのそばで、その種類や燃焼効率などについて話を伺った。
 「ファイヤーライフ岐阜」の社長によれば、店のオープンのきっかけは、
今から18年前に自身で薪ストーブを購入したこと。
元々は住宅建築をなりわいとしていたため、
新築する顧客に薪ストーブを紹介するようになったが、
購入時の自分と同様、ストーブのメンテナンスなどについて
どうしたらいいかわからない人(薪ストーブ難民)がとても多いのに気づき、
安全性とメンテを兼ね備えた薪ストーブ屋をやりたいと思ったのだそう。
 「ファイヤーライフ岐阜」で薪ストーブを購入すると、薪作りクラブ「与作」に参加することができる。
 最後は薪ストーブで調理された、焼きたてアツアツのピザをいただいた。
自然の生み出す炎で焼かれたピザは、とてもおいしかった。

調理のできる薪ストーブのあかあかと燃える炎で焼かれるピザ

編集員のココがオススメ!

 「岐阜県立森林文化アカデミー」は林業だけでなく、里山と人との関わりについて広く学ぶことのできる県立の専門学校です。一般市民向けの講座も開催されています。ナラは薪やシイタケ生産のほだ木として取り引きされています。また、ナラが枯れれば実をつける木がなくなり、野生動物たちが餌を求めて人里に下りてくる可能性もあります。獣害とも無関係ではないかもしれません。こうした研修は自然の声に耳を傾け、環境について考える良い機会であり、今後もこうした機会を大切にしていきたいと思います。

(松島頼子)

 

詳細情報

お問い合わせ 岐阜県立森林文化アカデミー
TEL: (0575)35-2525
FAX :(0575)35-2529
E-mail info@forest.ac.jp
URL 森林文化アカデミー

2013年1月16日現在の情報になります。

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