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郡上杉の割り箸を通じて森と人との関わり方を考える 「郡上わりばしプロジェクト」
2013.01.24 更新

郡上の杉材で割り箸を

 郡上踊りで有名な岐阜県郡上市八幡町。
ここに民間の林業事業体である「大原(おっぱら)林産」という有限会社がある。
現在、代表取締役を務める小森胤樹(こもり つぐき)さんは、郡上市内の主婦や林業関係者とともに、
郡上の杉材を使って「郡上わりばし」を製造・販売する「郡上わりばしプロジェクト」を立ち上げた。
2009年のことである。

FC岐阜」屋台村用の郡上わりばし。箸袋はスポンサーの広告費用によってまかなわれている

私が初めて小森胤樹さんに出会ったのは、
2011年に「岐阜県立森林文化アカデミー」を会場に行われた
「第8回 川と山のぎふ自然体験活動のつどい」であった。
たまたま同じテーブルについたのがご縁だったと記憶しているが、
郡上の材で割り箸を作る取り組みをしておられる話に興味が湧いたのと、
小森さんが移住者であること、また眼の光がとても強かったのが印象的だった。
 その時いただいた「郡上わりばし」はこれまで見たほかの割り箸とは異なり、
赤味がかった褐色で木目がはっきりと残り、ほのかに杉の香りがした。
以後、私はいろいろな場所で「郡上わりばし」を発信する小森さんを知った。
「FC岐阜」の屋台村で、「森は海の恋人」の理事長・畠山重篤さんを招いての
「森・川・海ひだみの流域シンポジウム」会場で、
名古屋の「東急ハンズ」で行われた「楽市楽座 つくりてバザール」で……
 林業従事者であるから木との関わりが深いことはわかるけれど、
いったい何がそんなに小森さんを「郡上わりばしプロジェクト」に駆り立てるのか。
その理由が知りたくて、今回林業技士の資格取得のため上京する小森さんにお願いして、
岐阜羽島駅構内で話を聞いた。

臨床検査試薬の研究開発職から林業界へ

小森胤樹さん。岐阜羽島駅にて取材

小森さんが代表取締役を務める「大原林産」

 小森さんは大阪府吹田市出身。
関西大学大学院工学研究科を修了した後、とある企業のラボで5年間、
臨床検査試薬の研究開発を行っていた。
退職を決意したきっかけは、朝礼での上司の言葉だったという。

「ぼくは元々環境に携わる仕事がしたいと思っていましたが、
そのためには環境破壊の源である化学を勉強せなあかんと思ってその道に進んだんです。
就職活動で水処理や環境アセスなどの会社を回りましたが、
なかなか内定がもらえず、医療関連の会社に就職しましたが、
今ひとつ、仕事にやりがいを見いだせないでいました。
そんな時、朝礼で『会社で5年後10年後の自分の姿を想像して働いていますか?』という話を聞き、
今の会社での自分のそういう姿がまったく想像できなかったので、
会社にとっても自分にとっても良くないからやめなあかんと思いました」

 ならば、30歳になった男が新たに1から始めて環境に携われる仕事とは何か。
いろいろ調べたあげく、行き着いた先が林業だった。
「資源の少ない日本において、木質資源は唯一自国で供給できるものなのに、
林業が産業として成り立っていないのはおかしいと思いました。
そこで、『林業のコンサルタントになりたい』と言ったら、
そんな職種は林業界にはないと言われたんです。
当時はまだ『緑の雇用』が始まる前で、岐阜県が農業・林業の体験者を募集しており、
志望動機を書いて送ったら採用されまして、
会社の夏休みを利用して『大原林産』に1週間お世話になりました。
そうしたら社長に『やる気があるなら採ってやるぞ』と言われ、『じゃあ、お願いします』と」

脱臼癖のあった肩の手術などを経て、
小森さんが「大原林産」に就職したのはそれから10カ月後の平成14年6月。
情熱はあっても山仕事の経験などなく、チェーンソーも使ったことはない。
もちろん、木を伐るのも初めて。
見よう見まねで仕事しながら最初の半年で10キロ痩せたという。

「郡上わりばし」に込められた森からのメッセージ

 郡上で林業に従事して10年。
今では現場よりも管理の仕事がほとんどになった小森さんだが、
業界のしくみがわかるにつれ、疑問が頭をもたげるようになってきた。

 「『日本の山を守るために国産材を使いましょう』というのは、
とてもわかりやすいキャッチフレーズです。
しかし、いったいどれだけの人が国産材で家を建てることができるでしょうか。
国産材で作った家具を買い求めると言っても、そんなに頻繁に買えるわけではありません。
ですから、建築や木工だけで国産材の利用を訴えかけるのは間口が狭いと感じるようになりました」
 そこで思いついたのが割り箸だったという。
1膳の単価は安いが、年間消費量は約180億膳と、住宅や家具などよりはるかに多い。

 ところでこの割り箸、一時期自然破壊の原凶、諸悪の根源のようにメディアから叩かれ、
割り箸を使うのは良くないことだと「マイ箸」を持ち歩く人が増えた。
今でもその影響で、山の木を伐ることは悪だと考えている人は多い。 
この点について小森さんは次のように語る。
「現在、割り箸の9割は中国からの輸入品。仮に割り箸をすべて国産材にしても、
その割合は日本で流通している材木のわずか0.4%に過ぎず、
日本国内において割り箸用の樹木を伐採することが森林破壊の原因になるとは考えにくい状況ですし、
環境への負荷も小さくて済みます。
また日本人は昔から使い終わった割り箸を燃料としてリサイクルしてきました。
それもまた大切なこと。
植林された山は、成長した分を伐採して使うことで良い状態を保っていけるのです」

小森さんにとって「郡上割り箸」は、「もっと山の木を使って下さい」と
広く一般にメッセージを発信するための最も身近で効果的なツールなのだ。

国産割り箸のトップメーカーで郡上の木を割り箸に加工

すべて柾目になっている郡上わりばし。
「四方柾」とよばれる取り方をすることでこのような木目になる

郡上わりばしの原木となる郡上の杉

割り箸の原木を切り出す

林業従事者なので木に詳しいとはいえ、
木を加工して製品化するにはその道のプロの力を借りなければならない。
「郡上わりばしプロジェクト」を始めるにあたり、
小森さんたちはまず、割り箸の製造方法を調べた。

割り箸の製造でよく知られているのは奈良県の吉野林業である。
吉野では端材から割り箸が作られているが、
枝打ちをしてしっかりと管理されているため、節がなく、歩留まりの良い割り箸ができる。
歩留まりとは期待される生産量に対して、実際に得られた製品生産量の比率をいう。
つまり、どれだけ損のないように、原木として供給された木から箸を作ることができるかということだ。
吉野流のやり方だと枝打ちのしてない郡上の杉は歩留まりが悪すぎて、割り箸の材料にはならない。
しかし、吉野とはまったく異なるやり方で、
日本で唯一、原木を丸々一本割り箸に加工する技術を持った会社が金沢にあることがわかった。
それが今、小森さんたちが加工・製造を依頼している「中本製箸」である。

金沢市にある「中本製箸」は国産割り箸のトップメーカー。
原木を割り箸の長さに切って、
割り箸にできない節の部分を「ミカン割り」と呼ばれるやり方で抜いて行くのだという。
そうしてできた小割を中本製箸さん独自の木取りで柾目にカットすることで割り箸は強度を増し、
きれいに割れるようになる。
節のある部分はバイオマスボイラーの燃料として使う。
 納品する材については一定の強度を出すためにある程度の年輪の詰まりが必要なのだという。
そのため俗にいう間伐材ならなんでも割り箸になるわけではない。
山側の立場として必要とする材木を出す責任もある。
 「ある程度目の詰まった太い材を出します。
一般の人に割り箸に加工する材を見せると建築材に使えるのに
使い捨ての割り箸にするなんてもったいないのでは?と聞かれます。
ですが、これだけ国産材の価値が下がった現状において、私は材木を見て、
建築材として市場に出すより『中本製箸』さんに収めた方が高く買ってくれる材を選んで出荷します。
所有者さんから山の管理を任されている立場として、
より高く買ってくれる所に材木を出すことが山にお金が帰ってくるということになります」
節を除いた小割は釜に入れて蒸して柔らかくし、割り箸の厚さにスライスする。
その後、箸の寸法に刻み、温風で乾燥させ、
全自動整形機で「元禄」や「利久」「天削」といった割り箸の形状に応じて加工し、
袋やケースに詰めて出荷する。

郡上わりばしから見えてくる世界の林業情勢

平成24年に高山で開催された「清流の国づくり大会」にも出品

前にも述べたが、「郡上わりばし」は赤身がかった褐色で普通の割り箸に比べるとかなり黒っぽい。
それは杉の黒芯(赤身の心材が黒く変色したもの)を使っているからだ。
黒芯は防腐・殺菌の作用は強いが、色が悪く、含水率が高いため建築用材には敬遠される。
また割り箸業界でも、割り箸は“白いもの”という固定概念から、
黒芯の杉材を割り箸用原木として最初は「中本製箸」に受け入れてもらえなかったという。
「しかし、消費者に聞くと、黒い割り箸の方が高級感があると言われました。
郡上わりばしの認知度が高まれば、杉の黒芯の価値を外食産業から高めることができるのではないか。
防腐・殺菌効果が高いという付加価値がつけば、適正価格での取引も可能になるでしょうし、
ほかの用途も生まれるかもしれません」と小森さんは考える。

現在、プロジェクトの中心メンバーは小森さんも含め7人。
中には林政関係者もおり、女性3人は主に郡上市内で、
「郡上わりばし」の普及に努めている。彼女たちは「郡上割り箸プロジェクト」を通じて
山の保全はもちろんのこと食育に関する取り組みもしたいと仲間に加わった。
また、2011年には、郡上市白鳥町をルーツとする
岐阜市の建設会社「ひだまりほーむ」(鷲見製材)と岐阜市内のNPO法人「Meets Vision」主催による
「ぼくらと森のかけはしプロジェクト」が誕生した。
対象は岐阜市内の親子。
小森さんが講師となって、郡上の山の現状や郡上わりばしと森を守る活動が
どのようにつながっているのかを説明。
次に参加者たちが自ら5膳入りの割り箸セットをつくり、
販売体験を行うことで環境や経済問題について楽しく学んでもらおうというものだ。

小森さんは将来的に郡上わりばしの製造を郡上で可能にしたいと、今段階的にその準備を進めている。
昨年の夏は林業先進国であるドイツへ渡り、その現状を視察してきた。
ドイツでは木材に関わる就労人数が自動車産業を上回るという。
日本では考えられないことだ。
「日本の利用可能な森林資源は過去最大になった。
しかし、すぐ家の裏にある山との距離は今が一番遠いのかもしれない」
(岐阜新聞 素描「近い山 遠い山」より 小森胤樹著)

編集員のココがオススメ!

「たかが割り箸、されど割り箸」と小森さんも「素描」に書いておられますが、割り箸という日本独自の木の文化に着目することで、日本の林業の実態が見えてくるのはおもしろいです。これも、小森さんが全くの異業種からの転職であったために、新鮮な目で林業を見つめることができたからではないでしょうか?里山の木が薪炭として燃料に使われ、里人たちにとって宝の山であった時代は終わりましたが、小森さんのような林業従事者が増えてくることで、新たに山にお金を落とす仕組みが生まれ、林業が産業として成り立つ時代が来るように思います。

(松島頼子)

 

詳細情報

お問い合わせ 090-8366-1731(小森胤樹まで)
E-mail mail:tsugukik@gmail.com
URL ホーム – gujowaribashiのJimdoページ

2012年12月16日現在の情報になります。

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