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桃の節句を祝う
尾張三河の「おこしもん」
2015.03.27 更新

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愛知県の尾張・三河地方では、ひな祭りに「おこしもん」という祝い菓子を食べる風習があります。3月3日が近づくと和菓子屋さんなどに並びますが、もともとは家庭で作られてきたもの。
愛知ならではのひな菓子、おこしもんを紹介します。

米粉で作る祝い菓子

ひな祭り間近の日曜の朝。名鉄・本星崎駅からほど近い米店「米久」には近所の人達が集まり、おこしもん作りが始まっていました。米久店主の柘植幸治さんにお話を伺いました。

「米粉をお湯で練り、木型に押し付けて型おこしをすることから、おこしもん、おこしものと呼ばれるようになりました。木型を使うのが特徴です。祝い菓子なので鯛や松、宝船など縁起のよいモチーフが多いですね」。

柘植さんは、笠寺とよばれるこの地域の歴史を学ぶ勉強会を開いたり、途絶えていた山車祭りを復活させるなど、長年に渡って地域の歴史や伝統を伝える活動をしています。毎年この季節になると、名古屋市博物館でおこしもん作り講習会の講師も担当。
「詳しい歴史は分かっていないのですが、江戸時代には作られていたようです。僕の持っている古い木型の中に、寛政7年(1795年)と記されたものがあります」。

おこしもんが作られているのは愛知県全域ではなく、安城市から刈谷市など旧東海道沿いの地域と、名古屋市内では緑区、南区、瑞穂区、昭和区のあたり。
「ここ南区のすぐ隣ですが、熱田では見られませんね。西区浄心、津島、甚目寺、そして知多のあたりでも作られているようです。おこしもんの風習は、昔の街道沿いに広まっていったのではないかと考えられています」。

古い木型

柘植さん所有の古い木型コレクション。風情がありますね。昔は落雁など和菓子の木型を参考にしていたようです

柘植さん

「米久」を営む柘植幸治さん(左)と、友人の福井勝昭さん(右)。「石川文庫 清寂庵」とは米久の敷地内にある建物の名前です。以前ここで郷土史を教えてもらった愛知県立大学教授の故・石川清之先生にちなんだもの。町の集会場として、地域の人に開放しています

楽しい型おこし

おこしもんの材料は、お米を挽いた米粉だけ。米の風味をいかすため砂糖などは加えません。
「昔は“しいな”と呼ばれるくず米を利用していました。もったいないという、日本ならではの価値観が反映されていると思います。木型も昔は端材を使っていて、これも物を粗末にしないという考えからでしょうね」。

生地作りを見せてもらいました。米粉に熱湯を少しずつ加えて混ぜ、耳たぶくらいの固さになるまでよくこねます。力の要る作業ですが、この日はすべて柘植さんの友人の福井さんが担当。

生地こねる

米粉1キロに対して熱湯600ccを加え、熱いうちにどんどん混ぜていきます

かっちゃん

さらに手でよくこね、生地が完成。耳たぶくらいの固さが目安

出来上がった生地は、ピンポン玉くらいの大きさに丸めて団子にします。彩り用に、食紅を加えて赤、緑、黄の3色の生地も作ります。「赤、白、緑のひし餅と同じ3色なのは、お雛様のお供えもんだからでしょうね」と柘植さん。

いよいよメインの型おこし。丸めた団子を木型に押しつけて外すのは、粘土細工のようでとても楽しい作業。蒸し器に並べて15〜20分ほど蒸すと、おこしもんの出来上がりです。
温かいうちに醤油や砂糖を付けていただきます。冷えて固くなったものは、お餅のように両面をガスコンロの網火やオーブントースターで焼いて食べます。

形おこし

生地を丸めた団子に小さくちぎった色生地を載せ、打ち粉用の米粉をまぶしてから、型にぎゅうっと押し付けます

型抜き2

木型をたててトン!と叩き、型から外します。色生地のアクセントがかわいらしいおこしもんが出来ました

蒸し上がり

表面につやが出てくるまで、15〜20分ほど蒸します。一度にたくさん蒸すので、折った箸を間に挟み、蒸し器の中に立てて並べます

地域と人をつなぐ郷土菓子

節句菓子として女の子がいる各家庭で作られていたおこしもんですが、最近はお店で購入する人が多くなっています。
「和菓子屋さんなどお店で売られるようになったのは、昭和30年代からですね。ここ笠寺のあたりは今でも作る人が多いですよ。どの家にも木型があり、ひな祭りにはたくさん作って近所の人や親戚などに配る風習が残っています」。

この季節、米久の店頭にはおこしもん用に自家製の米粉が並びます。毎年多くの人が買いに訪れ、なかには一人で10キロ、20キロと購入するお客さんも。ちなみに米粉1キロから作れるおこしもんは20個から25個程度とのこと。今年は約700キロの米粉を販売しました。

製粉機

米粉は米を洗って陰干しし、製粉機で挽いて作ります。金網で漉せるようになるまで何度も挽くというから大変な作業です。「昔はどの米屋さんもやっていたんだけどね。今は少なくなりました」と柘植さん。昔ながらの石臼挽きの細かさにこだわり、50年以上前の製粉機を使っています

みんなで作る

会場の「清寂庵」は地域の人が次々やってきてにぎやか。小学生の男の子も夢中で作っていました

「こんにちはー。今年もよろしく」「私は米粉2キロね」。お話を伺っている間も近所の人がひっきりなしに訪れ、型おこしをしていきます。
参加費は米粉の代金だけで、生地と木型は米久が用意。「うちは米屋だから、サービスです」と笑顔で柘植さんは話しますが、なかなか出来ることではありません。
「こうして小さい子どもさんからお年寄りまでみんなが集まって一緒に作ることで、地域のつながり、家族のつながりが出来て、歴史や文化も伝えていけると思うんです。そういうことって大事なことですから」。

毎年参加しているという女性は、「家で一人で作るより、みんなでおしゃべりしたりおやつ食べたり、そりゃ楽しいよー」。
「新潟に暮らす姪に送るの」と教えてくれた女性は、「姪も子供の頃から食べていた故郷の味だから、毎年楽しみにしてくれて。今は何でも買える時代でしょう、手作りのものが一番嬉しいみたいね」。

「あったかいうちに食べて」と、蒸したてのおこしもんが登場。ほかほか温かくて、ふわんとお米の香りがします。醤油をつけて食べるとさっぱりとしたお団子のような味わい。白い生地に咲いた赤や黄、緑の花も愛らしい、春の祝い菓子に出会いました。

焼きたて

蒸したてはつやつや。焼いたものも香ばしくてまた違った味わいです。醤油、砂糖、砂糖醤油と好みの味付けで

2015年3月1日取材時の情報になります
ライター : 梅田美穂

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施設名 米久
住所 愛知県名古屋市南区本星崎字町521
TEL 052-821-5004
営業時間 10:00〜19:00
定休日 日曜日
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