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日本最古の養鱒場で育てるビワマス
2015.03.27 更新

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日本最大の湖である琵琶湖にはビワマスと呼ばれる固有種が生息しています。長良川のサツキマスと共通の祖先を持ち、サツキマスは海に下りますが、ビワマスは河川から琵琶湖に下り、3~4年生活した後、再び故郷の河川に遡上し、産卵と同時にその一生を終えます。米原市の醒井養鱒場でビワマスの種卵種苗の生産が行われていると聞き、場長の岩﨑治臣(はるとみ)さんと養殖課長の西村哲也さんにお話をうかがいました。

霊仙山麓の自然を生かした養鱒場

醒井養鱒場は、鈴鹿山脈の最北端・霊仙山麓にある醒井峡谷に造られた日本最古の養鱒場です。明治11(1878)年、主に琵琶湖の固有種であるビワマスの増養殖を目的として開設されました。現在はビワマス約7万尾のほか、ニジマス69万尾、イワナ42万尾、アマゴ20万尾を飼育(平成26年8月1日現在)。県内の養殖業者へ稚魚を出荷し、ビワマス養殖の事業化に向けた本格的な取り組みが行われています。

事務所のある本館には「さかな学習館」が併設され、中央の巨大水槽ではビワマスやチョウザメなどを飼育。また、展示を見ながらビワマスの生涯や生態について学ぶことができます。

場内には丹生川の支流総谷川が流れ、土・日・祝日には天然の釣り場として開放されるほか、霊仙山から湧き出る天然の水をたたえた飼育池が点在。ビワマスやニジマス、アマゴ、イワナ、古代魚で卵がキャビアとして珍重されるチョウザメ、幻の魚と呼ばれるイトウなどが群れを成して泳ぎ、ニジマスやイワナのルアー釣りやエサ釣りを楽しめる場所もあります。

養鱒場周辺にはマス料理を食べさせてくれる料理店も何軒かあり、四季を通じて自然の鼓動が感じられる貴重な体験の場所でもあります。

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取材当日は2月中旬。霊仙山麓にある養鱒場は寒さが厳しく、雪が残っていた

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事務所の隣りにある「さかな学習館」。中央の水槽にはビワマスやチョウザメなどが泳ぐ

希少な天然資源ビワマス

現在、醒井養鱒場の場長を務める岩﨑さんは、かつて滋賀県の水産技術者としてビワマスの完全養殖技術の確立に携わってきた魚のプロ。「ビワマスはカワイイですよ。良い魚を育てるには親身になって魚と向き合わないとだめ。魚はしゃべらないから常に注意深く観察してあげないと…。体調管理は上から目線ではなく、側面を見ることが大切。横からおなか部分を見れば健康状態がわかります」とその極意を教えてくれました。

岩﨑さんによれば、天然ビワマスの漁期は6~9月。この時期は脂がのって一番おいしいそう。夕方、刺網(さしあみ)と呼ばれるテグスで作られたカスミ網状の網を、ビワマスが好む15℃前後の生息域に張りめぐらし、夜が明けるか明けないかのうちに網を引き揚げると、網に刺さったビワマスが捕れます。明かりのほとんどない新月の夜に漁獲高が多いと言われていますが、体長25cm以下の魚は捕獲禁止になっているため、リリースしなければなりません。天然ビワマスの漁獲高は年間30t。琵琶湖全体の総漁獲高(平成25年度は約1000t)から見ても決して多いとはいえず、希少な水産資源であることにはまちがいありません。

最近は遊漁者から始まった引縄釣りの一種のルアー釣りも行われるようになりましたが、琵琶湖の水産資源に影響を及ぼしているのではないかという懸念があり、滋賀県水産試験場で試験を行っているということでした。

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醒井養鱒場の場長・岩﨑治臣さん(左)と養殖課長の西村哲也さん

ビワマスの完全養殖技術の確立に貢献

養鱒場で天然ビワマスの飼育を始めた当初、岩﨑さんはその警戒心の強さにたいへん苦労したそうです。「ビワマスは本来肉食でコアユやエビ、水生昆虫などを捕食していますが、養鱒場で与えるエサは魚粉を固めたペレット。エサを食べず、なかなか大きくなりません。給餌機を自作するなどして、毎日、魚と会話しながら育てて行きました。ビワマスの世話をするために朝は1時間早く来て、夕方は1時間遅く帰るのが日課になっていましたね」。

せっそう病というサケ類独特の感染症が広がって四苦八苦したこともあります。「ほかの魚を飼育していた水でビワマスを飼ったら病気が出たので、山からにじみ出る新鮮な一次水で飼育したら病気は出なくなりました」と岩﨑さん。

こうした努力の結果、場内で飼育されたビワマスは、養鱒場の環境に適応した遺伝子を持つ魚になりました。そして昭和54年、採卵→授精→孵化→第2代の飼育というサイクルがすべて養鱒場内で行われるという完全養殖の技術を確立することに成功したのです。「160匹から50453粒を採取し、うち、8861匹を成魚として育てることができました」岩﨑さんはこれを記念し、技術が確立した10月9日を「ビワマスの日」と名付けています。

以後成長の速いグループの個体どうしをかけあわせる選抜育種により、成長・形質の良い個体を作り出す研究を繰り返した結果、平成5年に22カ月月齢で全長46.8cm・体重1656gの成魚を作出。この魚は養殖第1号と呼ばれ、醒井養鱒場では平成21年からその遺伝的形質を受け継いだ稚魚を、県内の養殖業者に向けて出荷しています。

取材後、場内にある「養鱒センター きたがわ」で、養鱒場で水揚げしたばかりのビワマス1尾を特別にまるごと料理していただきました。刺身にフライ、すまし汁、焼き物とビワマスのフルコースを堪能。特に紅色の刺身はとろけるように甘く、舌触りもなめらか。養殖ビワマスは天然魚とは違って周年脂がのっておいしく食べられるとのことです。

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養鱒場内のふ化場の奥にあるビワマスの飼育池

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水揚げされたばかりのビワマスの刺身・フライ・焼き物・すまし汁。唯一、養鱒場内にある渓流魚専門店「養鱒センター きたがわ」にて

【養殖センターきたがわ HP】

2015年2月17日取材時の情報です
ライター : 松島頼子

お問い合わせ
施設名 醒井養鱒場
住所 滋賀県米原市上丹生
TEL TEL:0749-54-0301 FAX:0749-54-0302
営業時間 3~6月・10~11月/8:30~17:00 7~9月/8:30~18:00 12~2月/8:30~16:00
定休日 年末年始(12/28~1/4)
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