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湖北の美食を極めた
長浜の伝統料理「鴨すき」
滋賀県/長浜市
2015.03.20 更新

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琵琶湖からの恵みを受け、古くから多様な食の文化が生まれ、栄えてきた滋賀県。同県の北東部に広がる湖北の長浜で、いまがもっとも美味だという、天然のマガモを使った伝統の食べ方があると聞き、産地から仕入れ加工している魚屋と、料理を提供している料亭旅館の二つの老舗を訪ねました。

魚屋が天然マガモを販売

歴史的な建築物がならぶ観光名所の「黒壁スクエア」があることで知られる、長浜市内の旧市街地、元浜町。多くの観光客でにぎわう、この町のなかに店を構えるのが、創業明治38年の「魚三(うおさん)」です。伝統の味を守り続ける同店では、四季を通して獲れる多種な琵琶湖の魚介を、無添加にこだわって様々な商品に仕上げています。

奥行のある広い店内に入ると、この地方の食文化を代表する、米と塩を用いて発酵させた「鮒(ふな)ずし」をはじめ、同じ製法でつくられたアユやウグイのすし、モロコやワカサギ、川エビ、タニシの佃煮の他、フナの刺身にその卵をまぶした「鮒の子まぶし」など、湖産の魚介を使った水産加工品がずらりと揃っていました。そんななか売り場で目にとまったのが、身を薄くカットし、きれいに盛り付けてあった天然マガモの鍋用の商品です。魚屋のなかに、なぜカモ肉がならんでいるのでしょう。

その理由を、同店の四代目で代表取締役の藤林英孝さんが説明してくれました。「秀吉公が長浜城主の頃、琵琶湖の漁師にカモを獲らせていたそうです。漁師が張る網にカモがかかり、それが魚屋にならんでいた。だから滋賀のなかでも長浜にだけこうした文化が残っているんです」。同店では、カモ肉をすき焼き風に調理して食べる郷土料理「鴨すき」の食材に使われる天然マガモを、産地から取り寄せて加工し、料理店に卸したり、消費者に直接販売したりしています。

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多くの観光客が行き交う、旧市街地のなかに店を構える魚三

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店内には琵琶湖産の魚介を使ったたくさんの商品がならんでいました

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店のなかを案内してくれた魚三の四代目・藤林英孝さん

熟練の手作業で一羽ずつ加工

同店で扱うマガモはすべて天然物で、新潟県の猟師が網で獲ったもの。昔は琵琶湖でも猟が盛んでしたが、昭和45年に保護区指定を受けて禁猟となってからは、毎年新潟から取り寄せているそうです。新潟での猟期は、解禁となる11月15日から翌年の2月15日までとなっていますが、「雪が降るまでが勝負」だと藤林さんは説明します。北方から飛来したマガモは、雪が積もると餌の米や麦を食べなくなって痩せてしまうため、天候と肉質をつねに見極めながら、いつまで取り寄せるかタイミングを計るそうです。

店の近くにある加工場を見せてもらうと、丸々と太った、たくさんの天然マガモが目に飛び込んできました。猟師によって獲られ、毛をむしって皮をはがされたマガモは、血抜きをせず、そのまま冷凍にして産地から送られてきます。それを職人が一羽ずつ、熟練の手作業で解体。骨は肉とともに細かく切ってすりつぶし、出汁をとるひき肉に。あとは赤身のやわらかいロース、心臓、砂肝、レバーなど、部位ごとに切り分けて鴨すきに使う食材へと仕上げていくのです。凍えるような湧水が流れ、底冷えのする環境のなか、職人たちはマガモを相手に黙々と加工の作業を進めていました。

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天然マガモの雄(奥)と雌(手前)。首の青い雄は「青首」と呼ばれています

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一羽ずつ職人が手作業で解体し、加工していきます

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きれいに盛り付けられた鴨すき用の商品

今の時期が最高の天然マガモ

次にうかがったのは、カモ料理が味わえる有名な料亭旅館として、創業80余年の歴史をもつ、同市朝日町にある「千茂登(ちもと)」。さっそく名物の天然鴨すきをいただきました。天然マガモのなかでも、もっとも美味とされる雄の「青首」のみを厳選して使っている同店。その食べ方は、まずコンブからとった出汁を熱した鍋のなかに、マガモの骨や肉を厚い包丁で何度もたたいて、山椒を隠し味に使った特製の肉団子を入れます。続いて、ロース以外のばら肉、糸こんにゃく、焼き豆腐、さらに契約している農家から毎朝仕入れているというネギとセリを加え、しばらく煮込みます。最後に鮮やかな赤身のロースをうえにならべたら、まだ熱が十分に通らないぐらいのところで取り上げ、やわらかくなった野菜と一緒に溶き卵をつけて味わいます。

同店代表取締役の三好武夫さんは「今年のカモはいい。なかでも今の時期は最高です」と自信をもって話します。臭みのない、とろけるようなロースは、程よく野性味にあふれ、その味わいはとても濃厚。野菜は甘みがあって、カモ肉との相性も抜群です。肉団子からの旨みが徐々に鍋のなかに浸透してゆき、最初はあっさりでしたが、食べ進めていくうちにどんどんコクが増していく、味わいの変化も楽しめます。最後の締めのうどんまで、過ぎゆく時間の流れを忘れ、お腹いっぱいになるまで湖北の美食を堪能しました。同店で鴨すきが味わえるのは、3月頃まで。カモ料理を提供する期間中は、宿泊営業は休みで、料理専門店としての営業になります。

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創業80年余の歴史をもつ料亭旅館の千茂登。鴨すき、近江牛、うなぎなどの料理が味わえます

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鴨すきについて説明する千茂登の代表取締役・三好武夫さん

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色鮮やかな天然マガモと鴨すき専用に栽培された野菜

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名物の天然鴨すき。肉団子の旨みが浸透し、食べ進めていくうちに濃厚な味わいへと変わります

2015年1月15日取材時の情報になります
ライター:新美貴資

【お問い合わせ】

●魚三
住所:滋賀県長浜市元浜町12-7
TEL:0749-62-4134 FAX:0749-65-0325
営業時間:8:30-17:30
定休日:毎週火曜日
【魚三 HP】

●千茂登
住所:滋賀県長浜市朝日町3-1
TEL:0749-62-6060 FAX:0749-62-6061
営業時間:11:00-14:00、17:00-22:00
定休日:月曜日(月曜祝日の場合は火曜日)
【千茂登 HP】

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